HUMAN ODYSSEY

― それは、創造を巡る旅。―

「ヒューマン・オデッセイ」の旅に出かけた7人のクリエーターは、旅先での出逢いや発見を通じて、よりパーソナルで繊細な部分、すなわち仕事のやり方や実践の方法についてふりかえることになります。その高い志と専門性に、エルメスの職人の姿勢が重なります。

エルメスのアーティスティックディレクターであるピエール・アレクシィ・デュマと本作の総監督・奥山氏が、それぞれの旅に共通して浮かび上がる、伝統を継承しながらその技を現代に実践するクラフトマンシップについて語りました。

アーティスティック・ディレクター<br />ピエール=アレクシィ・デュマ

総監督<br />奥山大史

ヒューマン・オデッセイとは?


奥山:そもそも、エルメスが今年の年間テーマを「ヒューマン・オデッセイ」にしたのはなぜですか?

ピエール・アレクシイ・デュマ: オデッセイとはオデュッセウス、つまりホメロスが書いたギリシャの長編叙事詩『オデュッセイア』に出てくる主人公です。オデュッセウスが長い漂流の旅をする中で様々な障害に遭遇しながらも、知恵を使って乗り越え、生き延び、最後には帰還を果たすという壮大な物語です。エルメスもまた、創業以来184年の歴史を六世代にわたって紡いできましたが、その間にも数々の困難があり、そのたびに様々な人たちの知恵と想像力によって乗り越え、永らえてきたのです。長い旅路とも言えるエルメスのこれまでの歴史に関わってこられた数えきれないほど多くの人々ひとりひとりの物語を再認識したいと思い、このテーマを選びました。

旅とは自分自身を発見すること


ピエール・アレクシイ・デュマ: 建築家の田根剛さんが、伝統的な日本建築を実践する「三角屋」を訪問し、記念に古い船の木片を持ち帰るシーンに、『オデュッセイア』の神話が重なりました。オデュッセウスの冒険譚もまた、船や筏での漂流シーンが印象的だからです。 奥山監督はこの映画で、旅が人間にとって必要であること、特にクリエイターにとっては自分自身が何者であるかを発見し、より良い自分になるために不可欠であることを描いていらっしゃいます。そのことはまさにエルメスが行ってきたことと通じるので、感動しました。


奥山:『オデュッセイア』との共通点といえば、エピソード1に登場する新城大地郎さんは、これまで海外で過ごした時期もありますが、生まれ故郷の宮古島に戻り、藍染の作り手を訪ねます。田根さんはパリを拠点に仕事をされていますが、今回日本に帰ってきて「三角屋」の技術に出会います。両者とも英雄として故郷に戻ってくるという点で、神話に通じた部分があるなと感じました。撮影が終わってから気づいたことですが。

ものづくりの知恵と技を継承すること


奥山:エルメスでもシルクスカーフの染めにインディゴ藍を使うことがあるとお聞きしました。エピソード1に登場する、藍の栽培から染織までを手がける藍染作家の砂川さんについて、どのように思われましたか?

ピエール・アレクシイ・デュマ: 非常に心打たれました。彼女のようなやり方で自然と再びつながっていくことは望ましいことだと思います。すべてのものづくりが徐々に自然をベースとした手仕事に回帰していくのではないかと感じています。一時は忘れ去られてしまった植物タンニンによるレザーのなめし加工「ロシアンレザー」の技術を、イギリスのなめし職人とともにエルメスが甦らせました。このような類まれな職人とその匠技を探し続けなければならないと考えています。我々が見出さなければ、その貴重な知恵や技はいつか途絶えてしまうかもしれませんから。

未来への物語を紡ぐ意義


ピエール・アレクシイ・デュマ: 今、世界はものすごい速さで移り変わっています。そのような時代に、どんな世界を信じ、築いていきたいのか、ということを各人が意識するべきでしょう。あなたは映画監督として作品に物語を語らせ、私たちエルメスはオブジェクトを作りながらストーリーを紡いでいきます。美しいものを愛し、ものづくりを慈しみ、互いを尊重し合う世界に生きていきたい。そのような未来に向けてものづくりをしていかなければならないと考えています。

奥山:その通りですね。ところで、もしピエール=アレクシィさんが第8話の主人公として旅へ出るとしたら、どこへ行きたいですか?

ピエール・アレクシイ・デュマ: 日本だったら屋久島へ行きたいです。以前一度だけ、このパワースポットの島へ行ったことがありますが、24時間しか滞在できなかったので、もう一度訪れたいです。もう一か所、行ってみたいのはニュージーランドの北にある、火山の近くの島です。ここに住むマオリ族出身のアーティストに、エルメスのカレをデザインしていただいたことがありました。彼は伝統的なタトゥーの文様を使用するため、村の長老からお許しを得てくれました。いつか私が島を訪ねた際には、一緒に火山に登ろうという約束をしましたので、ぜひそれを果たしたいです。

奥山:それは素敵な旅になりそうですね! 今日はお話をさせていただき、光栄でした。ありがとうございました。

ピエール・アレクシイ・デュマ: こちらこそ、今回は素晴らしい映画を作っていただき、ありがとうございました。次回はぜひ、日本かパリで直接お会いしたいですね。それもまた、私たちのヒューマン・オデッセイの1つになりますね。