GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『皆殺しの天使』
El Ángel Exterminador

エルメスのオデッセイ: 最も長い夜会
2021.9.4(土)~ 9.26(日)

Images courtesy of Park Circus/Sony Pictures

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2021年のテーマは「エルメスのオデッセイ」。

9月は、晩餐会に思いがけず幽閉されてしまったブルジョワジーの人々をめぐる不条理劇『皆殺しの天使』をお届けします。

『皆殺しの天使』
El Ángel Exterminador

1962年/メキシコ/94分/モノクロ/デジタル上映

監督:ルイス・ブニュエル
原案:ルイス・ブニュエル、ルイス・アルコリサ
脚色:ルイス・ブニュエル
製作:グスタボ・アラトリステ 
撮影:ガブリエル・フィゲロア
音楽:ラウル・ラビスタ
出演:シルビア・ピナル、エンリケ・ランバル、ジャクリーヌ・アンデレ、
ルシー・ガリャルド、エンリケ・G・アルバレス

ある夜、ノビレ夫妻の大邸宅では豪奢な晩餐会が催されていた。だが客を迎えるべき使用人たちは何かに急かされるように執事一人を残して屋敷を去ってしまう。晩餐会は無事終わるが、夜が更け日付が変わっても客たちは雑談に興じるばかりで帰る様子はなく、そのまま客間で一夜を明かすのだった。そして朝になり、彼らは互いの不可解な行動を目の当たりにして気づき始める。自分たちは何か異様な状況に置かれており、なぜかは分からないが誰もこの客間から出られなくなっているのだと……。撮影監督に名手ガブリエル・フィゲロアを迎えた本作は、メキシコ時代に撮られたブニュエル後期の代表作で、社会への強烈な諷刺が込められた不条理劇の極北である。

監督について Director

ルイス・ブニュエル/Luis Buñuel
1900年2月22日、スペイン生まれ。マドリード大学在学中に、サルバドール・ダリなどの若き芸術家たちと交流を深める。1925年にフランスへ移住し、1929年、ダリとの共同脚本で『アンダルシアの犬』を発表する。翌年には初長編『黄金時代』を監督。一旦スペインに戻り『糧なき土地』(’33)を撮った後、スペイン内戦をきっかけに再びフランス、そしてアメリカへ拠点を移した。1946年にメキシコへ渡り、1949年には市民権を獲得。同地にて『忘れられた人々』(’50)や『砂漠のシモン』(’65)などの傑作を世に送り出す。60年代半ばからは、フランスでセルジュ・シルベルマンやジャン=クロード・カリエールと組み映画制作を行った。『欲望のあいまいな対象』(’77)を最後に映画監督を引退。1983年にメキシコにて死去。
 

作品について About Film

 ルイス・ブニュエルの登場人物たちは、衝動に追い立てられ、妄想や強迫観念に囚われ、永遠に満たされない欲望にさいなまれる。『欲望のあいまいな対象』の初老の紳士は、コンチータという若い女性に何度も拒まれながら、彼女に対する欲望をどうしても捨てることができない。『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』の紳士淑女たちは、食事のたびに何かしら問題にぶつかり、いつまでも食欲を満たすことができない。『皆殺しの天使』では、晩餐に招かれた客たちが、豪華な邸宅から出られなくなり、そこに何日間も閉じ込められてしまう。
 彼らは、メキシコの上流社会に属するひとびとだった。その晩、彼らはオペラを見たあと、食事をとりに友人の邸宅に寄り、そこで架空の牢獄に囚われたのだ。囚われの身となるまでは、美しく優雅な身なりで、当たりさわりのない社交的な会話をかわしていたが、やがて、タキシードの上着は脱ぎ捨てられ、女性たちの美しく結い上げられた髪は乱れた。礼儀作法は蔑ろにされ、野蛮な無秩序に支配された。上流階級の優雅な暮らしは、社会秩序によって守られていたのだ。数時間と経たないうちに、事態は悪夢の様相を呈した。晩餐会が始まるまえに、召使いたちが次々と暇を乞い、屋敷を去っていったのは、彼らの主従関係に異を唱えるというよりも、支配階級の衰退に立ち会いたくなかったからかもしれない。
 ルイス・ブニュエルの映画は、宗教や社会制度を痛烈に諷刺したことで知られている。その作品はしばしばスキャンダルをまきおこし、ときには上映禁止の憂き目にあった。ブニュエルも参加したシュルレアリスム運動はマルクス主義と近い関係にあり、『皆殺しの天使』も政治的な観点から読みとくことができる。しかし、ブニュエルの作品には、夢幻的な側面があることも忘れるべきではない。幻想的な場面、不条理な状況、ブニュエル自身も説明できないという象徴性が、唐突にあらわれる。ブニュエルはいつも、現実的な枠組みのなかに不合理的なものをさも当然のように紛れ込ませた。『皆殺しの天使』では、熊や羊がキッチンにいても、招待客を迎えた妻は眉ひとつ動かさないし、ある場面では、まったく同じ会話が二度繰り返されたりする。
 試写会のあと、本作のカメラマンがまっさおな顔をしてブニュエルに向きなおり、こう告げた。「この作品には致命的な編集ミスがある。同じシーンが続けて二度出てくる」。これに対してブニュエルは、それは意図的なものであり、ふたつの場面は異なる意味をもつと答えた。わたしたちは、この反復のうちに、改革を断行できない硬直化した社会を見てとることもできるだろう。あるいは、もっとシンプルに考えてもいい。ブニュエル自身が回想録に記したように、彼はいつでも、反復される物事に惹かれたのだ。つまり、直感に導かれたに過ぎないと言うのだ。こうして、ブニュエルは分析から逃れようとする。もちろん、彼がそのような態度を取るのも、無意識のなせるわざかもしれない。

アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

公開スケジュール Schedule

【上映日】
9月4日(土)、5日(日)、11日(土)、12日(日)、18日(土)、19日(日)、20日(月・祝)、23日(木・祝)、25日(土)、26日(日)

【上映時間】
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。