『鏡』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『鏡』
The Mirror

夢を追いかけて:失われた夢
2019.10.5(土)~ 10.27(日)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2019年のテーマは「夢を追いかけて」。
10月は、ロシア映画の巨匠アンドレイ・タルコフスキー監督が描く自伝的映像詩『鏡』をお届けします。

 

『鏡』The Mirror

1974年/ソビエト連邦/106分/カラー、モノクロ/デジタル上映

監督:アンドレイ・タルコフスキー
脚本:アレクサンドル・ミシャーリン、アンドレイ・タルコフスキー
撮影:ゲオルギー・レルベルク
音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
出演:マルガリータ・テレホワ、イグナート・ダニリツェフ、
アナトリー・ソロニーツィン、ラリーサ・タルコフスカヤ、
オレグ・ヤンコフスキー、インノケンティ・スモクトゥノフスキー
フォトクレジット: (c)Mosfilm Cinema Concern 1974

アンドレイ・タルコフスキーが自身の幼少期を描いた自伝的作品。若き日の母と家族のもとを去った父。緑の草原と木立に囲まれた我が家、母が勤めていたモスクワの印刷所、雪の中の射撃訓練と初恋の少女。そして現在の自分や別れた妻と息子。タルコフスキー自身と家族にまつわる記憶の断片が、カラーとモノクロームの映像を交え、叙情的に、時に幻想的なタッチで描写される。また、ソ連による成層圏気球の飛行、スペイン内戦、第二次世界大戦、中国の文化大革命などの記録映像が挿入され、当時の時代背景を映し出している。本作にはタルコフスキーの母マリヤと妻のラリーサも出演しており、詩人として知られる父親のアルセニー・タルコフスキーが自らの詩を朗読した。また、姿を現さない主人公の声を名優インノケンティ・スモクトゥノフスキーが担当している。

 

監督について Director

アンドレイ・タルコフスキー Andrei Tarkovsky

1932年4月4日、ソビエト連邦イヴァノヴォ州ユリエヴェツ生まれ。父親は詩人のアルセニー・タルコフスキー。母親の教育方針もあり、幼い頃から音楽や絵画などの芸術を学ぶ。1954年に国立映画大学に入学し、映画監督であるミハイル・ロンムに師事する。卒業制作ではアンドレイ・コンチャロフスキーとの共同脚本による短編『ローラーとバイオリン』(’60)を監督。1962年『僕の村は戦場だった』で長編デビューし、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。その後『惑星ソラリス』(’72)、『ストーカー』(’79)、『ノスタルジア』(’83)などを制作する。1984年に事実上の亡命を宣言。1986年に『サクリファイス』を完成させるが同年12月29日、肺がんのためパリにて死去。
 

作品について About Film

ある観客が『鏡』を見終えたあとに、正直に打ち明けた。「残念ながら、全部は理解できませんでしたが、すばらしい作品でした」。アンドレイ・タルコフスキーが答えた。「作家には、自分にしか関わらない個人的なことがらを撮影する権利があります。心の奥深くに埋もれた記憶、ほとんど忘れてしまった思い出、もっと言えば、偽の記憶さえ、映画にすることができるのです」

本作の主人公である映画監督は、家族に愛情をもてないことに苦しんでいた。精神のバランスを崩した映画監督は、少年時代へと時間をさかのぼり、記憶の迷宮にまよいこんだ。時代や場所が錯綜し、ときには人物までも入れ替わる。直線的な物語に慣れた観客は、とまどいを覚えるかもしれない。そんな映像に、ときおり、偉大な詩人だった父親アルセニー・タルコフスキーの詩を朗読する声が重なる。

空想と記憶、過去と現在を往復しながら、脈絡なく映像が展開していく。白黒のフィルムが突然カラーに変わり、フィクションの途中にドキュメント映像が挿入され、登場人物のセリフにナレーションがかぶさる。主人公の記憶は、あるゆる瞬間に、無秩序によみがえる。不安にさいなまれたときも、祖国ロシアの存在意義について考えるときも、あらゆることが引き金となって無数の記憶が浮かびあがる。もはや、どれが本物の記憶で、どれが偽物の記憶かも分からない。『鏡』という作品は、このカオスのような分裂的な構造と濃密な映像によって、主人公が生きてきた無数の経験を表現する。個人的な体験だけでなく集団的な経験が、主人公の存在をつくり、記憶や精神をかたちづくった。そして今も、主人公の心は記憶にしばられている。タルコフスキーの分身であるこの内省的な主人公は、死の間際まで、過去の経験とともに生きてゆくだろう。

確かに難解な映画かもしれないが、『鏡』という作品には、幻想的な美しさと抒情性が感じられる。たとえば、妻と母の二役を演じる女優の顔にそっと近づいていく映像や、主人公が幼いころに住んだ家(彼の魂を象徴する場所)をいつまでも歩きまわる場面には、言葉では言い表せない奥深さが存在する。炎が掌を照らし、樹々が風にそよぎ、壁に水が流れる。それだけで、わたしたちは心が震えるほどの感動をおぼえる。タルコフスキーは、自然の四元素である「火水風土」を好んで撮影した。本作でも、宇宙とともに存在する人間のありようを思索するかのように、自然のモチーフがくりかえし用いられる。タルコフスキーは、この世界を構成する四元素をつうじて『鏡』に宇宙的な力を導きいれ、さらにそこへ、彼のもうひとつの特長である精神性を重ね合わせたのである。

アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
10月5日(土)、6日(日)、13日(日)、14日(月・祝)、19日(土)、20日(日)、22日(火・祝)、26日(土)、27日(日)
 
上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。