『新世紀、パリ・オペラ座』『音楽サロン』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『新世紀、パリ・オペラ座』
L'opera
『音楽サロン』
Jalsaghar

夢を追いかけて:独りの夢、集団の夢
2019.12.1(日)~ 12.29(日)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2019年のテーマは「夢を追いかけて」。

11月に引き続き、12月も「夢をめぐる」特別プログラムをお届します。
ご紹介する4本の映画のうち、3作品は過去に上映した作品からリクエストの多かった作品を選びました。

12月は、舞台の夢をめぐる2つの物語。
さまざまな立場の人々の情熱と連帯によって、舞台芸術の高みに挑み続ける『新世紀、パリ・オペラ座』。
すべてを失ってもなお音楽を愛し、孤高に生きた男の『音楽サロン』。
どうぞお楽しみください。

 

『新世紀、パリ・オペラ座』 L'Opéra

2017年/フランス/111分/カラー/デジタル上映

監督:ジャン=ステファヌ・ブロン
製作:フィリップ・マルタン
撮影:ブレイズ・ハリソン
出演:ステファン・リスナー、フィリップ・ジョルダン、
バンジャマン・ミルピエ、ブリン・ターフェル、ヨナス・カウフマン
フォトクレジット:(c) 2017 LFP-Les Films Pelléas - Bande à part Films - France 2 Cinéma - Opéra national de Paris - Orange Studio - RTS

芸術の殿堂パリ・オペラ座は変革の時を迎えていた。2014年、新総裁に就任したステファン・リスナーは、音楽監督のフィリップ・ジョルダン、バレエ団芸術監督のバンジャマン・ミルピエとともに新シーズンをスタートさせる。だが、そこには数々の苦難が待ち受けていた。就任わずか1年半でのミルピエの電撃退任。労働組合のストライキ。舞台公演2日前の主役降板。2015年11月に起きたパリ同時多発テロ。だが、いかなることが起ころうと、オペラ座はその歩みを止めることなく芸術の道を邁進してゆくのだった。今回オペラ座の聖域に潜入したカメラは、有名歌手の練習風景から衣装の洗濯に至るまで、劇場に関わる人々の悲喜こもごもを寄り添うようなタッチで描き出している。そしてロックを聴いて育ち、オペラ座を近寄り難い場所と語るブロン監督ならではのユーモアのある視座が、本作をオペラファンのみならず誰もが楽しめる作品にしているのである。

 

『音楽サロン』Jalsaghar

1958年/インド/99分/モノクロ/デジタル上映

監督・脚本:サタジット・レイ
原作:タラションコル・ボンドパッダエ
撮影:シュブロト・ミットロ
美術:バンシ・チャンドラグプタ
音楽:ヴィラーヤト・カーン
出演:チョビ・ビッシャス、ポドマ・デビ、ベーガム・アクタル、ゴンガポド・ボシュ、ローシャン・クマーリー
フォトクレジット:(c)Aurora Film Corporation

時は1920年代、時代の変化の中で、旧地主階級(ザミンダール)のビッションボルは所有していた広大な土地もほとんど失い、没落のただ中にいた。今や彼の唯一のよりどころは家族と、芸術を愛でること。音楽のパトロンと自負する彼にとっては、新興富裕層のモヒムなど取るに足らぬ存在であった。モヒムの経済力に物言わせた祝い事に招待されても、かたくなに断るだけ。それどころか、自らも音楽会を開いて対抗するのだった。ところが音楽会の最中、不穏な嵐が起こり、一家に悲劇がもたらされる。家族を失ったビッションボルは芸術に対する愛も失い、抜け殻のような4年間を過ごす。ある日、自邸に「音楽サロン」を造ったモヒムが彼を招待しようとやってくる。しかし、モヒムの慇懃無礼な態度に、彼の心に再び情熱が芽生える。音楽サロンの扉を開けろ、シャンデリアに火をともせ、酒を用意しろ―ふたたび音楽会を開くのだ!

 

監督について Director

ジャン=ステファヌ・ブロン / Jean-Stéphane Bron

1969年、スイス、ローザンヌ生まれ。ローザンヌ州立美術学校を卒業後、1997年に監督した『CONNU DE NOSSERVICES』がスイス作家協会グランプリを受賞、ロカルノ国際映画祭等に選出。1999年には『LA BONNE CONDUITE』もヨーロッパの各映画賞にノミネートされる。また2006年の監督作『MON FRÈRE SE MARIE』は、多くの映画祭で受賞したほか、ハリウッドでロバート・デ・ニーロ主演『グリフィン家のウエディングノート』('13)としてリメイクされた。2010年には、クリーブランドと銀行家の架空の裁判を再現したドキュ・フィクション映画『CLEVELAND CONTRE WALL STREET』が、カンヌ国際映画祭の監督週間部門で発表された。本作『新世紀、パリ・オペラ座』で2017年モスクワ国際映画祭ドキュメンタリー映画賞を受賞している。
サタジット・レイ/Satyajit Ray

1921年、インド西ベンガル州コルカタ生まれ。祖父、父親ともに文学・芸術に通じ、印刷や出版を手掛ける裕福な家庭に育つが、幼くして父を亡くすと経済的には苦しい生活を強いられる。大学卒業後、広告会社で働くかたわら、友人らと映画上映団体を設立。ロンドン赴任中に観たネオレアリズモの傑作『自転車泥棒』('48)は、レイが映画制作を決心するきっかけとなった。そして、処女作『大地のうた』('55)は、カンヌ国際映画祭など、国内外で高く評価され、サタジット・レイの名を一躍世界に知らしめた。その後は映画制作に専念し、『大河のうた』('56)、『大樹のうた』('58)など数々の名作を世に送り出してゆく。晩年は心臓を患うも、1991年の『見知らぬ人』まで映画を撮り続けた。1992年、第64回アカデミー賞・名誉賞を受賞、同年4月23日、コルカタにて息を引き取った。
 

作品について About Film

『新世紀、パリ・オペラ座』ジャン=ステファヌ・ブロン

世界屈指の歌劇場パリ・オペラ座の真実をとらえるために、ジャン=ステファヌ・ブロンは事前調査に6ヵ月、撮影に1年の歳月を費やした。だが、ブロンが記録しようとしたのは、オペラ座で行われる稽古や上演の様子ではない。ブロンのまなざしは、むしろ、オペラ座ではたらく無数の人々、かれらの情熱や軋轢にむけられる。バスティーユ広場を見下ろす、オペラ座総裁の広大な執務室から、舞台進行を指揮する薄暗いコントロール・ルームまで、誰もがせわしく活動するこの巨大なアリの巣をくまなく探索しながら、ブロンは大小の事件をカメラに収めていく。

オペラとバレエが、交互に映しだされる。ブロンはコメントを抑えた繊細な演出によって、アーティストたちの歓び、弱さ、エゴをとらえ、劇場内の社会問題やヒエラルキーを映しだす。労使間の対立がストライキに発展し、同時多発テロが発生し、メインキャストの降板によって公演中止の危機が迫る。その時、豪華絢爛なガルニエ宮では2千人近くの観客が公演を待ち望んでいた。オペラ・バスティーユの近代的な劇場でも、3千人近くの観客が開演を待っていた。その劇場の屋上でフランス国旗を掲揚するシーンから映画が始まることからも分かるように、本作は社会的・政治的なコンテクストをつよく意識している。ここで問われているのは、芸術と権力が分かちがたく結びついた「公共空間」であり、エリート主義的と批判される公立劇場の「民主化」である。このような状況において、個々の力が、至高の目的にむかって結集する。全スタッフが一丸となり、最高の舞台の幕が無事にあがったのだ。「どうすれば、みんなの力を合わせて理想を実現できるのか」。ブロン自身のこの言葉が本作の試みを要約する。ブロンの作品は、ある社会のイメージを描いて見せる。共に生きることの可能性を、その矛盾や困難をも含めて表現する。ブロンが示した理想像は、現代では容易に受け入れられないかもしれない。しかし、その理想像は、毎晩のようにオペラ座の舞台のうえで実現し、大金を惜しまず夢を見にやってくる観客たちを魅了しているのだ。
 
サタジット・レイ『音楽サロン』

茫洋たる大地を見下ろすバルコニーで、老人が水煙草をふかしながらぼんやりと訊ねた。「今は何月だ?」。城に閉じこもる孤独な王のように、老人は過去の郷愁に浸っていた。だが、音楽会を催すという考えが、老人の眼を醒ます。おおぜいの客を招待し、何よりも自分のために音楽会を開く。音楽は、老人に残された唯一の生き甲斐だった。しかし、老人はかつて音楽を愛するあまり家族を失い、自分自身を破滅に追いやったのだ。

サタジット・レイは、インド社会の現実を物語る。本作では、1920年代を舞台に貴族階級の没落を描きだした。ただし、社会構造の変化やザミンダール(大地主階級)の半封建的な権力を正面から扱ったわけではない。むしろ、芸術への愛と特権階級の誇りに囚われた老人の魂を、つぶさに観察していくのだ。人間的な悲劇を描くことで、社会的な問題を示唆するのである。

老貴族のビッションボルは、20世紀に順応できない旧世代の典型だった。サタジット・レイはこのビッションボルに、勤勉な新興富裕層を対置する。旧世代の貴族は美と芸術を崇拝し、新世代の成金は貴族階級の洗練された文化をまねようとする。流れゆく時間を象徴するように、氾濫した川の水がすこしずつ大地を侵していく。旧世代は退場し、新たな世代が舞台をひき継ぐ。「山猫と獅子は退き、ジャッカルとハイエナの時代が来る」。ルキノ・ヴィスコンティの『山猫』に登場する、もうひとりの老貴族はそう呟いた。

過去の栄華をしのばせる音楽サロンには、支配階級のナルシシズムを体現するように、巨大な鏡と先祖たちの肖像画が飾られている。さらに象徴的なのは、音楽サロンの中央に吊るされた巨大なシャンデリアである。蜘蛛の巣に覆われたクリスタルのシャンデリアが、物語の時間を司るようにゆっくりと左右に揺れうごく。物語の終盤、ビッションボルが最後にもういちど命令を下し、蝋燭に火が灯される。何年も打ち捨てられていた音楽サロンに、シタールの調べが響きわたる。音楽が雄弁な語り手となり、過ぎし日の賑わいを蘇らせる。
アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
12月1日(日)、12月7日(土)、12月8日(日)、12月14日(土)、12月15日(日)、12月21日(土)、12月22日(日)、12月28日(土)、12月29日(日)
上映時間
11:00/14:00/17:00
※全日程、11:00と14:00の回 が『新世紀、パリ・オペラ座』、17:00の回が『音楽サロン』の上映となります。
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。
 

お知らせ

2020年のル・ステュディオは、3月以降開始予定です。
詳細は随時、本サイトにてお知らせいたします。
来年も皆様にお楽しみいただけるプログラムを目指して参りますので、引き続きご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。