『描かれた未来―3編の建築ドキュメンタリー』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『描かれた未来―3編の建築ドキュメンタリー』
Short Film Selection – Desirs d’utopie

メタモルフォーズ―変身 : 描かれた未来
2014.12.6(土)~12.28(日) ※13、14日は特別プログラム

ル・ステュディオは銀座のメゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2014年は『メタモルフォーズ―変身』をテーマに、さまざまな角度から映画をお届けします。
12月のテーマは「描かれた未来」。建築物とメタモルフォーズを巡る3つのドキュメンタリーをお届けします。新しいライフスタイルやレジャーハウスとして構想された『フトゥロ』、シチリア島の未完に終わった都市開発の中でしなやかな日常を作り上げる『未完の地、イタリア』、都市の移り変わりの定点観察といえる『ポンピドゥー・センターの建設』。3つのドキュメンタリーから見えるのは、建設することは常に私たちの欲望の形であったこと、そしてモデルニテ(近代化)の名の下に、私たちが描いた未来の形と時の流れです。

また関連イベントとして12月13、14日にそれぞれ1日限りの特別上映会を開催。
各日の最終回ではル・ステュディオ プログラム・ディレクターであるアレキサンドル・ティケニス氏をパリより招聘しトークセッションも行います。
※関連イベントについて

 

『描かれた未来―3編の建築ドキュメンタリー』Short Film Selection – Desirs d’utopie

『フトゥロ ― 未来への新しいスタンス』
Futuro - A New Stance for Tomorrow by Mika Taanila 
1998年/フィンランド/29分/カラー/スーパー16mm

監督: ミカ・タニラ
撮影: ジェシ・エーロラ
サウンドデザイン: オリ・フウタネン
製作: ラッセ・サーリネン
配給: Kinotar Oy

旧ソ連とアメリカが宇宙開発でしのぎを削った1950~70年代。フィンランドの建築家マッティ・スーロネン設計によるUFO型レジャーハウス「フトゥロ」は、スペースエイジと呼ばれるこの時代を象徴する、フューチャーデザインの金字塔的建築物である。その実験的なコンセプトとデザインは、当時世界中の注目を集め、日本にも数軒が輸出されたが、オイルショック等の影響によりわずか十数件で製造中止となった。
「フトゥロ」の辿った数奇な運命を、フィンランドの若手映像作家、ミカ・タニラが追った歴史的ドキュメンタリー。

『未完の地、イタリア』
Unfinished Italy by Benoit Felici
2011年/イタリア/34分/カラー/HD

監督: ブノワ・フェリシ
撮影: バスティアン・エセ
編集: ミレーナ・ホルツクネヒト
配給: ZeLIG films

廃墟のメッカ、イタリア。「廃墟」とは未完への旅であり、それは第二次世界大戦末期から今日までの、イタリアのもっとも代表的な建築様式をみる場所である。建設半ば、完全と無の間の曖昧な状態に放棄された建物たちは、そのままイタリアの建築風景となった。観客のいないスタジアム、患者のいない病院、未だ初演のない劇場……。
本作品は、イタリアの未完の建物の潜在的な価値と、それらを生活に組み込んでゆく人間の能力に関する研究である。未来はすでに過ぎ去り、「永遠に待つ」現在を生き続けるこれらの廃墟は、我々が時間について思いを巡らせるための招待状となる。

◎モニター上映
『ポンピドゥー・センターの建設』
La construction du Centre Georges-Pompidou by Joseph Morder

1977年/フランス/30分/カラー/スーパー8mm
監督: ジョセフ・モルデル

5年間に渡るポンピドゥー・センターの工事過程を追ったドキュメンタリー。建物が出来上がる歳月の中で、パリの風景にそぐわないと思われたモダンな建築が少しずつ、街に馴染み、一つの界隈を形成してゆく様がわかる。
建築における近代化について考える貴重な映像。
フォトクレジット:© Kinotar Oy / © ZeLIG - School for documentary / © Joseph Morder / © Action Inc.
 

作品について About Film

建築という営みには、何かに取り憑かれたようなところがないだろうか。権力への欲望、風景のなかに確かな痕跡を残そうとする意志、進歩への揺るぎない信念などが、建築家たちを突き動かしている。なかでも、新しいライフスタイルを創造したいという思いは、大きなモチベーションとなっているだろう。そのような発想は、特に1960年代の建築やデザインにおいて顕著であった。当時、より良い世界をめざすことは、新しい時代を求めることに他ならなかった。つねに最先端であるような「新しさ」が求められた。

今月紹介する3本の作品はどれも、建築に対する当時の熱狂をつたえるものである。斬新なフォルム、革新的な技術が次から次へとあらわれ、建築が都市やその住民にもたらす影響が熱心に探求された。ヨーロッパの3つの地域で撮影された3本のドキュメンタリーは、スタイルも雰囲気もそれぞれに異なっている。1本目は、ユーモアを交えたエレガントな作品。2本目は、社会性と詩情をあわせもち、3番目の作品は、ひとことも言葉を挟まず、ただ映像だけで現実を記録する。

『フトゥロ-未来への新しいスタンス』は、人類の夢となるはずだった新しい住宅建築が、経済危機や流行の変化によって幻と終わるまでを描いた作品である。フトゥロというのは、一種のプレハブ住宅である。曲線だけで作られ、角ばったところがひとつもないこの住宅は、わたしたちの暮らし方に革命をもたらすものだった。ミカ・タニラ監督は、このフトゥロの誕生から、商品化、決して華やかとはいえないその結末までを、関係者の証言と記録映像を大胆に組み合わせながら描きだしていく。1960年代から70年代にかけて、クリエイターたちはすべてをゼロから作りなおそうとしていた。だれもが、熱成形プラスチックやエアロダイナミックな形状、工業的な色使いに熱中した。映画はこの時代をいきいきとよみがえらせる。それはノール社の「チューリップ・チェア」が一世を風靡し、実験住宅が盛んに研究された時代である。ミカ・タニラ監督はこの時代の豊かな創造力と楽観主義を強調し、その一方で、曲線だけが人類の未来をかたちづくるといった発想のナイーブさを指摘する。
ドキュメンタリー作家でありながら、ビジュアルアートの分野でも活躍するミカ・タニラ監督は、ユーモアたっぷりにこのUFO住宅の宇宙的なデザインを強調する。電子音楽のような抽象的なBGMは、B級のSF映画をおもわせる。ラストシーンでは、フトゥロが空へ飛びたつ。いったいどこへ向かったのか。故郷の星へ帰るのだろうか。

『未完の地、イタリア』には、過去の映像はまったく出てこない。フランス系イタリア人の青年監督が、卒業制作の映画を撮るために故郷へもどって実際に目にした現在の現実だけが映しだされるのである。
監督のブノワ・フェリシは、故郷のシチリアを歩きまわり、いたるところで未完成のままに放置されている巨大な建設現場に遭遇する。その光景から見えてくるのは、環境への影響などお構いなしに、金を生みだす土木工事をなによりも優先する社会構造である。
都会にも田舎にも、無人のスタジアムがそびえ、途中で放棄された高速道路がよこたわっている。シチリアのひとびとは、人間の欲望と虚栄心を象徴する巨大建築に辛辣な皮肉をなげつける。わたしたちもまた、巨大プロジェクトのなれの果てをまえにして愕然と言葉を失うだろう。それは「イタリア経済の奇跡」の裏面であり、地方の腐敗をあらわす徴候である。
だが、コンクリートの廃墟がしめすのは、イタリアの政治状況だけではない。そこには、もの悲しくも異様な美しさが感じられる。服も飾りもはぎとられ、いわば幾何学的な骸骨となって打ち捨てられた構築物が、奥行きのある哲学的な演出とワイドスクリーンによって美しく見えてくるのだ。『未完の地、イタリア』は、始めたことを完成させられない人間の弱さを描くとともに、遺棄された建物を再利用する人々の心のうちに、ユートピアを思い描き、世界を変えてしまう人間の強さを見いだすのである。

『ポンピドゥー・センターの建設』は、建築を愛好するアマチュア映画監督が撮った作品である。アマチュアといっても、問題は才能よりもむしろ撮影機材などの技術面にあった。この映画の撮影で使われたのは、ごく普通の8ミリカメラである。映像に音声はなく、スタッフもいない。照明は自然光のみ。そんな条件のなか、ジョセフ・モルデルはまるで物好きな通行人のような雰囲気で、7年間にわたってポンピドゥー・センターの工事現場にカメラを向けつづけ、画期的な現代建築の出現を記録したのである。
パリの街は、重厚な灰色の石でできている。そのパリの中心部に、原色で塗られた金属製の未確認物体が出現した(この建設に反対した人々はそれを「製油所」と呼んだ)。レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースは、誰も見たことのない新しいスタイルの美術館を考えだした。構造材や各種パイプがすべて丸見えになった建物は、パリの耳目を驚かし、ひとびとの顰蹙を買った。映画では、この建物が積み上げる途中の積み木のようなかたちで登場する。
ジョセフ・モルデルは、急激に変化するパリの一地区を撮影した。その街は、最先端の現代建築によって思いがけず過去の歴史のなかへと押しやられた。「8ミリカメラと自伝的フィクションの巨匠」と呼ばれるモルデルは、自分自身の人生に生じた出来事と同時代の出来事をひたすらカメラにおさめた。何の変哲もない映像も積み重なれば、過去にかんする貴重な記録となる。そこには時代の変化だけでなく、映画の変貌もまた刻まれている。露出不足や露出オーバーとなり、コントラストが強く、粒子の粗い映像が、すでにほとんど過去の遺物となった銀塩フィルムの時代を思い起こさせる。作品の冒頭からおよそ10分後、古いアパルトマンの外壁にぽっかりと空いた巨大な穴が画面にあらわれる。モルデルは何も知らずに、ゴードン・マッタ=クラークの『円錐の交差』を撮影していたのである。マッタ=クラークの作品については、10月のプログラム「都市は物語る」で紹介したが、このプログラム・タイトルは今月の特集にもぴったりと合うだろう。

アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
12月6日(土)、12月7日(日)、12月20日(土)、12月21日(日)、12月23日(火・祝)、12月27日(土)、12月28日(日)

上映時間
11:00/14:00/17:00
※2作品連続上映(約63分)/ 『ポンピドゥー・センターの建設』はシアター前室にてモニター上映(約30分)
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。