『短編オムニバス ― 都市は物語る』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『短編オムニバス ― 都市は物語る』
Short Film Selection – Toute la ville en parle

メタモルフォーズ―変身 : 都市は物語る
2014.10.4(土)~10.26(土)

ル・ステュディオは銀座のメゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2014年は『メタモルフォーズ―変身』をテーマに、さまざまな角度から映画をお届けします。

10月は「都市の変容」にフォーカスした5つの短編をお届けします。
古き良きといわれるようなヨーロッパの街並みでさえ、あらゆる都市は時代の流れとともに変身を遂げ、それぞれの物語を紡いでいます。その中で見え隠れする都市の表情をカメラは克明にとらえます。100年前のパリの大洪水を伝えるニュース映像、撤去の決まった建築物にくりぬかれた都市を射抜く穴、喧噪の後の夜明けの街と若者たち、誰もいないホテルで語られる場所の記憶、未来の人類学者が捉えるNY……。日常の中でそうしたメタモルフォーズを発見する時、都市の物語が立ち上がるのです。

 

『短編オムニバス ― 都市は物語る』Short Film Selection – Toute la ville en parle

『セーヌ川の氾濫』 La crue de la Seine
1910年/フランス/4分7秒/モノクロ/35mm

監督:不明(ニュース映画)
製作:Eclipse
配給:Lobster Films
1910年1月のパリ大洪水。街ごと水没し巨大な湖と化した当時のパリの様子をカメラに収めた「ニュース映画」。

『聖アントニオの朝』 Manhã de Santo António
2012年/ポルトガル/25分/カラー/デジタル

監督・脚本:ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
撮影:ルイ・ポサス 編集:マリアナ・ガイヴァン
配給:DotDash
ポルトガルの新鋭監督による、祭りの熱狂とその後に訪れる静寂や焦燥感、夜明けの若者たちの抜け殻のような姿にインスピレーションを得た短編。

『シーサイド・ホテル』 Sea-Side Hotel
2006年/フランス=日本/9分30秒/カラー/ヴィデオ

監督:ルイージ・ベルトラム
音楽:ジミー・T
ツーリズムの影に置き去られた海辺のリゾートホテル。案内役の女性が語るかつてのホテルの記憶に、廃墟の姿が重なる。

『円錐の交差』 Conical Intersect
1975年/フランス/18分40秒/カラー/16mm

監督:ゴードン・マッタ=クラーク
撮影:ブルーノ・デウィット、ゴードン・マッタ=クラーク
配給:Electronic Arts Intermix
ポンピドゥー・センター建設のため、17世紀築の住宅の取壊しが決まった。撤去前の住宅に「巨大な穴」を開ける、マッタ=クラークの代表作。

『NY、失われた文明』 NY, the Lost Civilization
1996年/モナコ/18分/モノクロ/16mm

監督・アニメーション:ディラン・マクニール
ナレーション:ハーリン・クイスト
撮影:SQUASH&TAPAS、アレハンドロ・アルー
「未来の人類学者」の視点から、アイロニーとユーモアを込めてニューヨークの日常風景を読み替える疑似ドキュメンタリー。
フォトクレジット:© Lobster Films © AGENCIA - PORTUGUESE SHORT FILM AGENCY © Courtesy Louidgi Beltrame & Galerie Jousse Entreprise © Gordon Matta-Clark. "Conical Intersect", 1975. Courtesy Electronic Arts Intermix (EAI), New York. © 1996 Dylan McNeil
 

作品について About Film

水に浸かり、破壊され、打ち捨てられ、奇妙な生き物にのっとられる。映画のなかの都市は、おかしな出来事や災害にみまわれ、想像の産物におそわれる。永遠につづくと思われた秩序も、予想外のことがひとつ起きただけで狂いが生じ、わたしたちの街も、建物も、暮らしも、それまでとはまったく違ったものにみえてくる。
パリ、リスボン、マンハッタンや九州で、ある日突然、街路や建物がもろさを露呈し、神秘的な表情をみせる。わたしたちは非日常的な光景をまえにして驚き、不安をおぼえ、あるいは微笑むだろう。

『セーヌ川の氾濫』
20世紀初頭、エクリプスを初めとする映画製作会社が、ニュースカメラマンを各地に送り、ニュースとエンターテインメントを兼ねた映像をあつめさせた。古い映画フィルムの収集と修復をおこなっているロブスターフィルムのスタッフが、最近になって偶然、数メートル分のフィルムを発見した。時間にすれば4分ほどの短い映画だが、それは1910年の冬にパリの表情を一変させ、その後二度と繰り返されることのなかった自然災害を記録した貴重な映像だった。その年の冬、光の都は数日間にわたって水上都市に変貌した。街路は運河に変わり、住民はボートで移動した。石造りの頑丈そうな建物や城壁も、思いがけない自然の猛威をまえに無力な姿をさらしたのである。

『聖アントニオの朝』
映画は、ミケランジェロ・アントニオーニ風の映像からはじまる。ひっそりと静まりかえった近代的な街並み。幾何学的な構図。フレームの端に位置する数人の人物。しかし、かれらはこちらに顔をみせない。カメラに背を向けたまま、まるでゾンビのようにどんな障害物も気にすることなく、機械的な足取りで街を歩きまわる。しかし、原因不明の災厄に襲われたのか、いきなり歩道にたおれこむのだ。
リスボンの街全体が、化学兵器の標的になったのだろうか。それとも、カルト教団の手に落ちたのか。『聖アントニオの朝』はホラー映画なのか。それとも、iPhoneを手放せない自閉症ぎみの若者たちを描いた作品なのか。この映画はいったいどういう種類の作品なのだろうか。
謎をとく鍵は、タイトルに示されている。聖アントニオの日の前夜、リスボンでは昔から夜を徹して祭りを祝い、酒を飲みふけるのである。ジョアン・ペドロ・ロドリゲスの作品では、夜更かしの若者たちがいつもリスボンやマカオの街をさまよい歩く。隣国スペインのペドロ・アルモドバル監督の作品にも同じような若者たちが出てくるが、ジョアン・ペドロ・ロドリゲスの若者たちは、かれらよりももっと悲劇的な運命にさらされる。『聖アントニオの朝』では、リスボンの守護聖人である聖アントニオだけが画面に顔をみせる。祭りの次の朝、酔っぱらって暴力的になった若者たちを、彫像の眼が咎めるように見つめている。

『シーサイド・ホテル』
鹿児島県の北部。巨大なホテルの廃墟がひっそりとたたずんでいる。太平洋の浜辺にうちあげられた幽霊船のように、消費社会の遺物があわれな姿をさらしている。『シーサイド・ホテル』は、1960年代末に建てられたホテルの映像と、亡霊のような案内役の女性の映像を交互に映しだす。女性は死後の世界をおもわせる白黒テレビの画面にあらわれ、いまではすっかり樹々に覆われた廃墟をこの世の楽園だといって讃美する。宣伝用のパンフレットに書いてありそうなその言葉は、実のところ、デヴィッド・クローネンバーグの最初期の作品のひとつ『シーバース』のプロローグをほぼそのまま使ったものだ。クローネンバーグの作品も、人里をはなれた謎めいた建物が舞台となっていた。

ルイージ・ベルトラムは、現代の廃墟に魅せられている。そして、かなりの映画通である。それゆえ、忘れられた建築の記憶を保存するために、フィクションの手法に訴えたのである。ベルトラムは考古学者として遺跡を探査し、人間の活動の軌跡をたどる一方で、映像作家としてフィクション特有の距離感と視線を現実の記録に組みいれた。この方法から生じた現実と虚構のズレが、廃墟のメランコリックな詩情をふかめているのである。

『円錐の交差』
2週間にわたり、へルメットの男たちが床や壁を正確に切り取っていく。100年以上前の梁を切断し、生活の痕跡がまだ残っているパリのアパルトマンを躊躇なく破壊する。堅固な壁に守られた私的な世界に巨大な穴がうがたれ、建物の胎内がさらけだされる。通行人たちが驚きの目をみはる。
ゴードン・マッタ=クラークは、すべてを計算したうえでこの「脱構築」を実現した。建物から巨大な円錐を切り取る。すると、そこに円錐形の空虚が生まれる。「アナーキテクチャー*」と名付けられたこの手法は、幾何学的な要素をつけたしていく建築家たちの手法とは正反対のものである。マッタ=クラークはこの過激な方法によって、住まいや記憶のありようを問いなおしたのである。
この円錐形の数メートル先では、もうひとつ別のメタモルフォーズ(変身)が進行していた。そこでは、ひとつの街そのものが変わろうとしていた。パリの旧市街のまんなかに、金属の時代を宣言するようにポンピドゥーセンターが姿をあらわしたのだ。都市環境を根底からひっくりかえすこの変化にたいして、アーティストが敷地を占拠するといった出来事もおきた。『円錐の交差』は1975年のパリ・ビエンナーレに出品されたが、その20年後に思いがけないかたちで新たな展開をみた。円錐形の穴をうがたれた建物のあとに建てられた新しい建物の壁に、造形作家のピエール・ユイグが『円錐の交差』の巨大な映像を映し出したのである。現在に重なりあった過去の映像が、都市はたえず変化するという事実をあらためて思いおこさせた。
*アナーキテクチャー:「非・建築」を意味するだけでなく「アナーキー/アーキテクチャー」を含意する。

『N̂Y、失われた文明』
本当のような話をでっちあげる「モキュメンタリー」(偽ドキュメンタリー)の手法は、いまも多くの作家たちをひきつけている。ディラン・マクニールは、世界の破滅をのがれた都市を描くために、社会学的なアプローチをよそおった。自身が演出した映像と記録映像をたくみに組み合わせ、モンティ・パイソンにならった不条理とアイロニーをくわえた。イギリスを代表するコメディグループへ敬意を表し、マクニールはN̂Yを「ニー」と読ませ(『モンティ・パイソンのライフ・オブ・ブライアン』にもとづく)、シュールなコラージュアニメ-ションを多用し、ありふれた映像にとんちんかんなナレーションをつけて典型的なイギリスのナンセンスを表現した。
作品は、マンハッタンをふたつの面で諷刺する。誰もがマンハッタンの暮らしに憧れ、そのライフスタルをまねようとする。そして、その街を「先進的な西欧文明」のシンボルと考える。だが、ヨーロッパからやってきたばかりの青年監督の目には、ニューヨークの矛盾と過剰がはっきりと見えたのである。

アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
10月4日(土)、10月5日(日)、10月11日(土)、10月12日(日)、10月13日(月・祝)、10月18日(土)、10月19日(日)、10月25日(土)、10月26日(日)

上映時間
11:00/14:00/17:00
※5作品連続上映(約75分)
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。