『哀悼の石』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『哀悼の石』
Agelastos petra (Mourning Rock)

メタモルフォーズ―変身 : 神話の傷あと
2014.9.6(土) ~9.28(日)

  • エレフシナは、アテネにほど近い小都市。古代ギリシャにおいてはエレウシスと呼ばれたこの街は、大地に農耕の恵みと穀物の実りをもたらす豊穣の女神デメテルの聖域を擁していた。しかし急速な近代化は古代ギリシアの遺跡が多くのこるこの地をギリシャ有数の工業地帯へと一変させる。長年の聖域が侵食され破壊されながらギリシャ有数の工業地帯へと変貌していったこの土地の姿を、監督フィリポス・クチャフティスは10年の歳月をかけてカメラに収めた。聖地をコンクリートで埋め立てた石油工場、古代の石を集めて街をさまよう男……。古代ギリシアの信仰を集めた豊穣の地は、果たしてその歴史的遺産と引き換えに現代の豊穣を得たのだろうか。監督は一人の巡礼者として、近代的な発展の中で追いやられた神話の傷あとを丁寧に掬いあげてゆく。詩情漂う哀愁のドキュメンタリー。本作は第41回テッサロニキ国際映画祭で数々の賞を受賞した。

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2014年は『メタモルフォーズ―変身』をテーマに、さまざまな角度から映画をお届けしております。9月は、ギリシャのドキュメンタリー映画監督フィリポス・クチャフティスによる『哀悼の石』をご紹介いたします。

 

『哀悼の石』Agelastos petra (Mourning Rock)

2000年/ギリシャ/85分/カラー/35mm/ギリシャ語音声・日本語字幕付

監督・脚本・撮影・製作:フィリポス・クチャフティス
音楽:コンスタンチノス・ヴィタ
編集:フロニス・テオハリス
音響:ヤニス・ハララビドイス
字幕監修:福田千津子
字幕:松岡葉子
配給:Filippos Koutsaftis
フォトクレジット:©Filippos Koutsaftis
 

作品について About Film

「あなたの映画では、エレウシスがまるで戦場のように描かれています。街そのものが過去を記憶し、その記憶をわたしたちに差しだそうとしています。しかし、その記憶がいつも争いの種になってしまうのです」。美術史家のジョルジュ・ディディ=ユベルマンは、フィリポス・クチャフティスフィリッポス・クツァフティスへの手紙のなかで『哀悼の石』*に触れてそう記している。そして、この映画もまた愛と不安に駆られながら、過去を保存し、現在を理解するために戦っているのである。

デメテルの秘儀で知られる古代ギリシャアの都市エレウシスは、およそ2500年ものあいだ厳しい風雪に耐えてきた。その歴史のなかでもっとも苛酷な試練をあたえたのは、いくつもの丘を削り、工場と高速道路で遺跡をかこんだ現代のわたしたちだろう。
都市化の波は、過去の痕跡をあとかたもなく消しさってしまう。しかも大多数の人間はそれを気にとめることもない。これに対してクチャフティスは、都市の来歴を掘りおこしたヴァルター・ベンヤミンと同じく、現代のエレウシスのしたに埋もれるさまざまな過去に目をむけるのである。
都市の来歴を掘りおこしたヴァルター・ベンヤミンと同じく、クチャフティスクツァフティスも都会の風景に埋もれた古い地層を発掘する。そこでは風景がほんのすこし変わるだけで、過去の痕跡があとかたもなく消えさってしまう。にもかかわらず、誰もそのことに関心をもたないのである。

クチャフティスクツァフティスは親しげな素振りでカメラをまわす。エレウシスの住人と街並み、遙かな過去の記憶をきざんだ石、いくつもの思い出をかかえる男と女、この国がうけた悲しみを語るひとびと、小アジアからやって来た難民たち、労働者、職人、考古学者……。かれらの言葉や身振りには、現代の社会から失われつつある人間らしさと誇りが感じられる。

どの人生にも、どの場所にも、波乱にみちたギリシャアの歴史が凝縮されている。この映画は、そのような人生と場所のモザイクから生まれた。クチャフティスクツァフティスはさまざまな声を縒りあわせながら、エレウシスの本質とかつての聖性を見出そうとする。しかし、その余韻がいまも微かに聞こえるエレウシスの神話を、大地によこたわる廃墟とは別の場所にさがしもとめるのである。

この映画にはいろいろな人物が登場するが、そのなかにどんな脚本家も思いつかないようなユニークな人物がでてくる。その男はみんなから気ちがいと呼ばれるホームレスで、猥雑な街をさまよいながら古代の石をさがしている。男はいつもひとりきりで、誰もかれが何者であるかを知らない。フードのしたに隠されているのは傷か、それとも後光か。男は考古学者のように、誰もが忘れてしまった過去に敬意をしめす。この映画にでてくる他の人物と同じく、この男も12年におよぶ撮影のあいだにカメラのフレームから消えていった。『哀悼の石』はいくつもの人生の終わりを見届け、エレウシスの秘儀に加わる。わたしたちはそこで生命の奇跡に立ち会い、死と向きあう術を伝授されるのである。

*女神デメテルが、地獄冥界の神ハデスにさらわれた娘ペルセポネの帰りを待つあいだに座っていた石の名前。

アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
9月6日(土)、9月7日(日)、9月13日(土)、9月14日(日)、9月15日(月・祝)、9月20日(土)、9月21日(日)、9月23日(火・祝)、9月27日(土)、9月28日(日)

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。