優雅あるいは暴力 短編セレクション| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

優雅あるいは暴力 短編セレクション
Short Film Selection – Etats de grâce et de violence

スポーツは素敵!:優雅あるいは暴力
2013.9.1(日)~9.29(日)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
9月はいろいろなスポーツの短編、5作品をご紹介します。

 

優雅あるいは暴力 短編セレクションShort Film Selection – Etats de grâce et de violence

1.『水泳』 La natation par Jean Taris 
1931年/フランス/9分/モノクロ/35m

監督:ジャン・ヴィゴ
出演:ジャン・タリス

2.『青列車』 Le Train Bleu
1994年/フランス/25分/カラー/35mm

監督:イヴォン・ジェロー
台本:ジャン・コクトー
音楽:ダリウス・ミヨー
出演:エリザベート・モーラン、ニコラ・ル・リッシュ、クロチルド・ヴァイエ、ローラン・ケヴァル他

3.『KOK』 KOK
1988年/フランス/4分/カラー/35mm

監督:レジーヌ・ショピノ
舞台装飾:マルク・キャロ
衣裳:ジャン=ポール・ゴルチエ
出演:マリー・オージェ、リー・ブラック、ポーニー・ダブソン、ジョセフ・レノン、レジーヌ・ショピノ

4.『テニス・エルボー』 Tennis Elbow
2012年/フランス/16分43秒/カラー/デジタル

監督・脚本:ヴィタル・フィリッポ
出演:マルタン・ド・ミッテナエール、マルク・ショレ、フィリップ・ルボ、カトリーヌ・ヴァナティエ

5.『ララバイ』 Lullaby
2010年/日本/13分11秒/カラー/HDV

監督:やなぎみわ
身体のパフォーマンスへの追及は、スポーツだけではなくダンスにも共通している美学。ジャン・タリスの完璧なストローク、スポーツを取り上げ伝説となったバレエ作品『青列車』など、優雅で洗練された動きは私たちを虜にする。一方、戦いという場でみせる人の本能は、スポーツの原点でもあり、ジェンダーの問題とともに社会の側面を映し出している。スポーツの深層に迫る短編セレクション。
フォトクレジット:© Gumont / © 1994 Caméras Continentales, NHK / Opéra National de Paris and NVC ARTS, a Warner Music Group company / © Cornucopiae / Courtesy of the artist and Yoshiko Isshiki Office, Tokyo
 

作品について About Film

スポーツには2つの顔がある。優美さと無駄のない技術との調和から生まれる、動きの美しさ。そして、その動作に潜む暴力性だ。その暴力とは、格闘技のようなスポーツにまつわるものに限らない。競技のなかで、人は対戦相手を圧倒しようという気持ちに駆り立てられる。それはプロのアスリートであれ、スポーツ愛好家であれ変わらない。

今回の5本の短編を順に見ていくと、スポーツの美は次第に、激しい戦いへと姿を変える。最初の2本の映画には暴力の片鱗もうかがえない。微笑を浮かべた競泳チャンピオンによる水泳教室と、1920年代の上流階級のスポーツをテーマにしたバレエは、純粋にそのテクニックと美しさを見せてくれる。最初に暴力がその姿をのぞかせるのは、リングの上でボクシングの身振りをするダンサーたちの、無邪気な様子を通じてである。それに続く父と息子のテニスの試合においてはっきりと姿を現した暴力は、愛し合い争い合う2人の女性の体の衝突によって、いよいよ存分に発揮されることになる。

『水泳』では、フランスにおける2人の伝説的存在の、意外な組み合わせが実現した。1人は水泳の複数種目で金メダルを獲得し、その名を冠したプールが今なお多く存在するほどの名選手、ジャン・タリス。そしてもう1人は、『新学期操行ゼロ』や『アタラント号』を撮った革新的な映画監督、ジャン・ヴィゴ。「自由な精神」を世に示した映画監督に毎年贈られる賞は、「ジャン・ヴィゴ賞」と名付けられている。さて、茶目っ気たっぷりでいたずら好きのタリスは、まさしく「水を得た魚」のように自在に泳ぐ姿をヴィゴに撮らせている。しかし一方のヴィゴは泳ぎのテクニックには興味がないらしく、注文制作のこの作品を、光と特殊効果を多用した水遊びの時間に変えてしまう。1920年代の前衛映画は、動きと視覚的なリズムによる抽象・実験芸術としての「完全映画」(Cinégraphie intégrale)を志向していたが、ここでのヴィゴはまさしくこの作法に忠実だ。

『青列車』*でスポーツに興じるのは、プロのアスリートたちではない。キュビズム的装飾に彩られた浜辺を気取った様子で闊歩し互いの魅力を競う、シックな海水浴客たちである。1924年にモンテカルロのバレエ・リュスによって創作された『青列車』には、セルゲイ・ディアギレフを中心に、当時を代表する新しい感性の持ち主が参加した。コクトー、シャネル、ミヨー、ピカソといったさまざまな分野の才能が集結し、舞台芸術に革新を起こしたのである。
ダンスの歴史において重要な位置を占めるこの作品は、クラシックバレエから完全に逸脱しているわけではない。『青列車』はクラシックを再解釈しつつ引き延ばし、随所にユーモアと、平泳ぎの動作やゴルフ、テニスのスイングに想を得たパントマイムの要素を入れ込んでいる。
パリ・オペラ座のダンサーによって演じられたディアギレフの振付は、1920年代に流行したこれらの新しい娯楽を皮肉ったものだ。とはいえその衣装、楽しさや軽薄さによって際立つ、この時代が持っていた優雅さはそのままに保たれている。


『KOK』は、1980年代を代表する振付師レジーヌ・ショピノによるショーのタイトルで、ノックアウト(KO)とOKという二重の意味が込められている。観客が取り囲むなか、ジャン=ポール・ゴルチエによってボクサーに「変身」させられたダンサーたちが動き回る。旋回する舞台装置は、ショピノ監督とイラストレーターのマルク・キャロの考案。この短編では当時の映像、ダンス、モードの世界に地殻変動を起こした多くの才能を見ることができる。彼らに共通するのはある種の形式主義であり、奇抜でありながらも洗練されたスタイルだった。
『青列車』のダンスのように様式化されていながら、『KOK』におけるダンサーたちの身振りは乱暴で鋭く、格闘技もまた一種のダンスであるということを思い起こさせる。

別のリング、すなわち屋外のテニスコートに登場するのは、山荘でバカンスを過ごす父親と若い息子である。『テニス・エルボー』は、ある家族の生活を短く切り取った作品であり、過熱してゆくラリーを通じて父子の敵対関係を描き出す。息子の挑戦を受けた一家の長は、負けることを受け入れられるのか? 試合は徐々に決闘の様相を呈してゆく。何としてでも勝ち、敗北の屈辱だけは免れなければ……。どんな試合にも人は何かを賭けて挑むものだが、ここではその重みが、2人を結びつける絆ゆえに倍増している。
ヴィタル・フィリッポ監督は、4人の登場人物の行動を繊細に描いている。自らの老いを認められない父、父を尊敬のまなざしで見つめる末っ子、離れていく年頃の長男、争いを調停する明晰な母……作品の根底に流れるのは、ありふれた家族のドラマである。

アーティスト、やなぎみわの映像作品『ララバイ』では、人形の家のような舞台装置に仮面をかぶった2人の女性が登場する。「祖母」と「孫娘」は、優しい仕草と取っ組み合いを繰り返し、攻撃と防御をかわるがわるに担う。聞こえてくるのは、衣擦れの音と組み敷きあう体がぶつかる音のみ。この交代は感情の二面性、すなわち愛されると同時に支配されたいという欲求を表しているのだろうか? あるいは、各人の役割を縛りつけ、別のコミュニケーションの可能性を閉ざしてしまう社会的束縛を? 『ララバイ』を含むやなぎみわの作品においては、女性、そして社会と家庭における女性の地位というテーマが繰り返し扱われている。この作品では、2人は一息つく間にも次の戦いへのエネルギーを蓄えているらしく、またすぐに新たな戦いが始まる。このサイクルは、舞台装置が消えた後も果てしなく続くかのようであり、現実の生とパフォーマンスの境界はどこまでも曖昧になってゆく。

*「青列車」は、ノルマンディーとリヴィエラの海岸を、パリを通過して繋いでいた列車の名前。

アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
9月1日(日)、9月7日(土)、9月8日(日)、9月14日(土)、9月15日(日)、9月16日(月・祝)、9月21日(土)、9月22日(日)、9月23日(月・祝)、9月28日(土)、9月29日(日)

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。