特集プログラム 『ドキュメンタリーから広がる世界』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

特集プログラム『ドキュメンタリーから広がる世界』
A World Through Documentary Film

現代(いま)に生きるアルチザン
2011.9.30(金)~11.27(日)※11.4(金)を除く

メゾンエルメスは2001年銀座にオープン、2011年で10周年を迎えました。オープン当初より10階にプライベートシネマ「ル・ステュディオ」をかまえ、パリの街角の映画館のような個性あふれるプログラムを上映してまいりました。

2011年、エルメスは、「現代(いま)に生きるアルチザン」という年間テーマに呼応するように、普段、表舞台に現れることのないエルメスの職人に焦点を当てたドキュメンタリー作品『Hearts & Crafts(ハート&クラフト)』を製作しました。ル・ステュディオでは当作品の上映にあわせ、ドキュメンタリー・フィルムに注目した特集プログラムをお届けいたします。

ル・ステュディオからのセレクションとして、舞台美術家であり、パリの映画学校La fémis(フランス国立映画学校)でも教鞭をとるアレキサンドル・ティケニスの監修のもと、時代を隔ててパリの街中に暮らす職人や手仕事をなりわいとする人々をフィルムに収めた3作品を上映します。さらに、ドキュメンタリーを専門とした日本最大規模の映画祭として国際的な評価の高い山形国際ドキュメンタリー映画祭より、2011年度のコンペティション作品中4作品を凱旋上映、また、過去上映作品ライブラリーから5作品をあわせて上映いたします。

この秋、銀座の小さなプライベートシネマは、視点の異なるいくつものドキュメンタリーフィルムを通じて、未知の世界に触れる交流の場となります。

 

特集プログラム『ドキュメンタリーから広がる世界』A World Through Documentary Film

エルメス製作映画『ハート&クラフト』(2011)Hearts and Crafts
監督:フレデリック・ラフォン&イザベル・デュピュイ=シャヴァナ
2011年/フランス/カラー/ビデオ/42分


1837年、パリの馬具工房として誕生したエルメス。その根幹を支えるのはいつの時代も職人だった。二人の監督はパリからアルデンヌ地方、リヨン地方、そしてロレーヌ地方-フランスの四つの場所にあるエルメスの工房を訪ねて回り、そのなかに響き渡る皮革やクリスタル、シルクの音と職人の沈黙をとらえる。職人の技術としぐさを観察する視線は、その沈黙のなかに潜む生命の輝き、情熱、プライドを静かに解き放っていく。

フレデリック・ラフォン、イザベル・デュピュイ=シャヴァナ
フレデリック・ラフォンはレバノンやルワンダ、ボスニアやアフガニスタンの紛争をフィルムに収めた著名なレポーター、ドキュメンタリー作家である。彼はレバノン戦争についてのルポルタージュによって、1987年にアルベール・ロンドル賞を受賞するなど、その分野で最も高名な賞も受賞している。

イザベル・デュピュイ=シャヴァナはゴブラン美術学校の写真部門で学んだ後、デザイナーおよびジャーナリストとして、映像やアート・ディレクションに情熱を傾け、編集、広告の分野でアジアやアフリカ、アメリカを縦横無尽に駆け巡った。



エルメス ル・ステュディオがセレクトした 『パリと職人たち』
アレキサンドル・ティケニス 監修

『パリの小さな仕事』Les petits métiers de Paris
監督:ピエール・シュナル
1932年/フランス/19分/モノクロ/16mm


戦前のパリの通りはまだ、どこか別の世紀からやって来たかのような行商人や流しの職人たちでごった返していた。床屋、マットレス製造職人、もぐりの行商人……。物書きや写真家たちにしばしばインスピレーションを与えてきたこれらの人々は、自分の店を構える資格もなければ、余裕もなかった。商売道具を背負ったり、荷車に乗せて引いている彼らの奇妙なシルエット、そして通行人への掛声にピエール・シュナルは魅了された。彼の映画は、決して簡単には撮影を許さない人々の稀少な証言となる。監督は時に彼らを追いかける。なぜなら彼らは何もかも警戒しているから。とりわけ警察を!

1930年代、40年代に活躍した監督、ピエール・シュナル(1904-1990)は主にメロドラマや刑事ものの映画を撮った。長いキャリアの初期に作られたこのドキュメンタリーに監督は「演出用の」短いシークェンスを迷わず挿入し、自身の映像スタイルを打ち出している。彼の画面を切り取るフレーミングのセンスは映画に美しさと詩情を与え、さらに当時すでに消え去ろうとしていた人々への郷愁が加わっている。

『帽子職人』C’est le chapeau qui fait l’homme
監督:ベルナール・ラスカーズ
1996年/フランス/26分/カラー/ビデオ


23歳のジェロームは紳士および婦人用帽子職人を志願し、ジャンセル親方の元に弟子入りして3年間の厳しい見習い修行生活を送っている。親方は父親の後を継いだ帽子職人で、舞台やショービジネス向けに「時代物」の帽子を昔ながらの製法で造っている。
「メートル・ダール(名工)」の称号を文化省より贈られた親方は、グランブールヴァールの中心に構える工房で、20世紀末においては稀少財産となった己の技を伝えていく義務を負う。軍人のケピ帽、あるいは海賊の三角帽のコレクションの中から、ジェロームが型紙を作り、フェルトを成型し、厚紙を縫う。だがそこに留まることなく、伝統と革新の融合についても学んでいく。
なるほど確かに帽子が男を作る。将来を信じ、己の情熱を注ぐ道の修行に打ち込む若い男を。
この映画は『L’art et la manière(技と手法)』シリーズの一環として制作された。シリーズのなかでは、それぞれの作品がひとつの工芸を紹介している。

『ダゲール街の人々』Daguerréotypes
監督:アニエス・ヴァルダ
1975年/フランス/80分/カラー/35mm


原題「Daguerréotypes (ダゲレオタイプ)」は1839年より初期の肖像写真術を次々と発明した男と彼の名を冠したパリの通りに捧げるオマージュである。このダゲール街はアニエス・ヴァルダが暮らし、働く、いわば彼女の庭である。
ヴァルダは隣人と映画作家という二つの視点から、パン屋、時計屋、理髪店を訪ね、ショーウィンドウの裏側で働く姿や、店の奥での親密な空気をフィルムに焼き付けた。何年も前から変わらぬ彼らの職人気質で家族的な商売は、流行には目もくれず、当時パリを変えつつあった近代性とも無縁の存在であるかのように思われる。

1928年生まれのアニエス・ヴァルダはもともと写真家であった。生涯の伴侶であり、何本もの映画を捧げたジャック・ドゥミと同じく、彼女は1950年代末のフランス映画を刷新したヌーヴェル・ヴァーグを同時代人として体験した者の一人である。1955年の処女作「La pointe courte」以来、フィクションとドキュメンタリーを交互に手がけ、しばしば、この二つを彼女なりのユニークで詩的な手法で混ぜ合わせるのを好む。『ダゲール街の人々』で彼女が我々のもとに届けるのは、平凡ながら心を打つ個人的なストーリーで構成された一冊のアルバム、そして日常と過ぎ行く時間、希望と挫折、忘れられた夢についての考察である。



山形国際ドキュメンタリー映画祭 過去作品ライブラリーより

『ピクチャー・オブ・ライト』(1995 優秀賞)Picture of Light
監督:ピーター・メトラー
1994年/カナダ、スイス/83分/カラー/35mm


カナダのマニトバ州チャーチヒルの冬は、-70℃にもなる寒さだ。そこで自然の崇高さとオーロラなどの壮観な現象を描くリリシズム溢れる本作品は、人間と自然の対立、近代芸術的技術を代表する映画のイメージの可能性などの問題を哲学的に追及する。自然を捕えようとするのは人間のうぬぼれに過ぎない。寒さでまぶたも開かないまま撮影すると、出来上がった映像は美しく鮮明で、それがいわば虚像であることを実感する。土地の住人たちの生活にも目を向けた、温かい人間性と好奇心に溢れた作品。

『アンダーグラウンド・オーケストラ』(1999 審査員特別賞)The Underground Orchestra
監督:エディ・ホニグマン
1997年/オランダ/115分/カラー/35mm


パリの地下鉄構内、あるいは街角で、さまざまな音楽家が思い思いの楽器を演奏し、糧を得ている。どこの都会でも見慣れた光景であるが、彼らの多くは政治亡命者であり、不法移民である事実が音楽を奏でる背後に潜んでいる。1995年の本映画祭に出品された『メタル&メランコリー』で、ペルーのリマのタクシー運転手たちにカメラを向け、ラテンアメリカで必死に生きる庶民の姿を映像に引き出したエディ・ホニグマンは、異国の地で生き延びる人々の演奏、生活、ことばを画面に瑞々しく焼き付ける。クラシックやシャンソン、R&B、ワールド・ミュージックから始まってあらゆるジャンルに及ぶ演奏の素晴らしさと、音楽家たちが語る過酷な過去、決して楽ではない現在。ホニグマンの彼らをみつめる目は温かく共感に満ち溢れているが、映像は安易に情感に流れることなく、軽やかなスタイルを維持している。目と耳で堪能できる人間讃歌、この監督の最高作である。

『羊飼いのバラード』Shepherds’ Journey into the Third Millennium
監督:エリッヒ・ラングヤール
2002年/スイス/124分/カラー/35mm


スイスの羊飼い一家の日々の営みをアルプスの山々を背景に描く。何百頭もの羊の群れ。雪のなか牧草を求めてさまよい、車が行き交う道路を横断する。小羊の出産とそれを見つめる妻や子ども、乳搾りやパン作りの毎日。世界最古の職業であるといわれる羊飼いの、実際は過酷な労働でもある生活を『アルプス・バラード』(映画祭'97コンペ作品)のラングヤール監督が見つめる。

『メランコリア 3つの部屋』The 3 Rooms of Melancholia
監督:ピルヨ・ホンカサロ
2004年/フィンランド、ドイツ、デンマーク、スウェーデン/106分/カラー、モノクロ/35mm


チェチェン紛争をめぐる子どもたちの生活を3つの場面から追う。ロシア連邦北西部サンクトペテルブルクの士官学校では幼い子どもたちが軍事教練に明け暮れている。廃墟と化したチェチェン共和国の首都グロズヌイでは親子の生活が引き裂かれ、隣国イングーシ共和国の難民キャンプでは子どもたちが空爆の音に怯えている。見守るように慈しむ眼差しの中に、見据えるべき未来を失った悲惨な状況下で生きる子どもたちの表情が浮かび上がる。

『アレンテージョ、めぐりあい』(2007 山形市長賞)Encounters
監督:ピエール=マリー・グレ
2006年/ポルトガル、フランス/105分/カラー、モノクロ/ビデオ


1950年代後半、ポルトガル現代詩の若き雄アントニオ・レイスと、ポルトガル民族音楽のコルシカ人研究者ミシェル・ジャコメッティ、そして映画監督のパウロ・ローシャたちが、ポルトガル南部アレンテージョ地方ペログアルダ村民の歌に魅せられて次々とその村を訪れた。パウロ・ローシャの映画を挿みながら、レイスたちが通った道や真紅の花で飾られた野原、静かな海と村のたたずまい、哀しみをたたえた歌や詩が情感たっぷり流れ、我々を清涼感で満たしてくれる。



山形国際ドキュメンタリー映画祭 2011年度コンペティション作品より

『遊牧民の家』Nomad’s Home
2010年/エジプト、ドイツ、アラブ首長国連邦、クウェート/61分/カラー/ビデオ
監督:イマン・カメル


シナイ半島の荒涼とした砂漠で女性起業家として生きるセレマと出会う辺境への旅。モーセ山近くの水の枯渇した村で、女性で最初に学校に通った彼女は、夫に支えられながら因習に立ち向かい、ベドウィン女性たちに経済力と教育をもたらそうと試みている。監督のパーソナルな視点から語られる女性たちの営みは、エジプトで生まれ育ち、住いを転々とし、現在はドイツに住まう監督自身の<遊牧>民としての人生とポエティックに重なり響き合う。

『星空の下で』Position Among the Stars
2010年/オランダ/111分/カラー/ビデオ
監督:レナード・レテール・ヘルムリッヒ


インドネシアの家族を12年間追い続けた三部作の完結編。両親を亡くし叔父一家と暮らす孫娘を訪ねて田舎から出てきた祖母を中心に、定職がなく闘魚に興ずる叔父とそれを嘆く妻との夫婦喧嘩、反抗期を迎えた孫娘の大学進学問題などがテンポよく映し出される。宗教間の衝突や貧富の格差、世代間の意識のずれを巧みに折り込みながら、家族を想う庶民の日常を、疾走するカメラワークでドラマチックかつユーモラスに捉えた。

『川の抱擁』The Embrace of the River
2010年/ベルギー、コロンビア/73分/カラー/ビデオ
監督:ニコラス・リンコン・ギル


コロンビア西部から、カリブ海に注ぐ全長1540キロのマグダレナ川。川沿いの住民は、日々の糧と同時に水の事故をももたらす川に宿る精霊モハンに畏敬の念を抱いて生きてきた。神秘的な霧の中、葉巻や蒸留酒をモハンに捧げ豊漁を祈願する人々。川の流れに乗って語られるモハンとの遭遇談。それらはやがて、虐殺によって解体された遺体の部位が流れてくるという数々の証言によって、コロンビアが抱える現実と結びつく。川を、生と死、人間と精霊の交差点として融合させ、息子や兄弟を亡くした女性たちの強い怒りと深い悲しみを静かに悼む。

『日は成した』Day is Done
2011年/スイス/111分/カラー/35mm
監督:トーマス・イムバッハ


郊外に聳え立つ煙突、飛び立つ旅客機、階下の路上で見られるさまざまな出来事など、アパートのベランダ越しに眺められた風景が15年以上の歳月にわたり記録される。その一方、留守番電話に残されたメッセージが監督の私的生活を断片的に物語る。時にコマ落としで加速される日常風景の映像と、監督の生活を示唆する声。両者は時の流れの中で重ねられて世界のひとつの断面を浮き彫りにする。タイトルはニック・ドレイクの歌曲による。

『テザ 慟哭の大地』TEZA
監督: ハイレ・ゲリマ
2008年/エチオピア=ドイツ=フランス/140分/カラー/35mm


1970年代に医者を志し故国エチオピアを離れ、ドイツに留学していたアンベルブル。しかし、外国での人種差別と、皇帝ハイレ・セラシエの支配から軍事独裁政権に取って代わった故国の現状に失望し、荒涼とした故郷の村に帰ってきた。村で待つ母と村人たち。その中に佇むひとりの謎の女性アザヌ。蘇ってくる幼少期の記憶と大地の霊、忘れることができない夢に導かれるようにアンベルブルは、過去と現在を行き来する。そこに迫りくる独裁と暴力の影。この国に未来はあるのだろうか。その先に見えてくる希望の光とは。(公式ウェブサイトより引用)

ハイレ・ゲリマ
1946年生まれ。エチオピアのゴンダール出身。現在アメリカ・ワシントンD.C.のハワード大学映画学教授。アフリカ人の視点から、アメリカや西半球に移住したアフリカ系移住者の課題と歴史を描く作品を多く監督している。1976年に製作した代表作『三千年の収穫』(ロカルノ映画祭 銀獅子賞)で、アフリカを代表する映画作家として知られるようになる。『三千年の収穫』は2006年のカンヌ国際映画祭で完全修復され、プレミア上映された。1983年のベルリン国際映画祭で“Ashes and Embers”(1982)が国際批評家連盟賞受賞(フォーラム部門)、1993年同映画祭コンペティション部門で“Sankofa”(1993)が上映。2008年、『テザ 慟哭の大地』がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、審査員特別賞・金のオデッサ賞(脚本賞)・SIGNIS賞をトリプル受賞した。

画像クレジット
©“Hearts and Crafts” A film by Frédéric Laffont and Isabelle Dupuy-Chavanat, 2011
Daguerreotypes © Agnes Varda et enfants 1994
© Collections Gaumont Pathe Archives
© La Huit
© cinematrix
Yamagata International Documentary Film Festival
 

上映スケジュール Schedule

上映日
9月30日(金)~11月27日(日)※11月4日(金)を除く

上映時間
土曜・日曜・祝日 11:00/14:00/17:00  金曜 19:00
※ただし、10月14日(金)は14:00/18:00 10月15日(土)は11:00/15:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。