『インド夜想曲』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『インド夜想曲』
Nocturne Indien

語りつがれる“ものがたり” Ⅵ
2010.12.4(土)~12.26(日)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。

 

『インド夜想曲』Nocturne Indien

1989年/フランス/カラー/110分/35mm/英語​

監督:アラン・コルノー
原作:アントニオ・タブッキ
脚本:アラン・コルノー、ルイ・ガルデル
音楽:フランツ・シューベルト
出演:ジャン=ユーグ・アングラード、クレマンティーヌ・セラリエ
フォトクレジット:© TF1
フランス人のロシニョルは、インドで失踪した友人のグザヴィエを探すために、彼が残した手がかりを頼りにボンベイから、マドラス、ゴアを旅する。スラム街のなかにある薄汚れたホテル、患者で溢れかえっている質素な病院、自らの知識を誇るインド人学者のもの言い、夜の帳の向こうでうずくまる少年と占い師。グザヴィエに関わりのあった場所を訪れ、人々に出会ってはその言葉に耳を傾けるにつれて、ロシニョルはインドの混沌とした濃密な夜の世界に迷い込んでいく。
 

作品について About Film

ボンベイに初めてやってくるなり、われらが主人公はこの町で最も悪名高い下級娼婦街に向かう。こうして彼は初めて、無数の家を持たぬ彷徨える人々と接することになる。

やがて、植民地時代に建てられた、この町の駅舎の巨大なコンコースで、ささやかながらも一夜の眠りを求めて床にじかに横たわる、あらゆる年齢の人の海を横切る。だが、このぞっとするような光景に接しても彼は驚いたり、ことさら動じたりするようには見えない。

ジャン=ユーグ・アングラードが好演する主人公は、これら何百という見知らぬ人々の赤貧洗う暮らしぶりとはまったく別のことにひどく執心しているのだ。彼は物語の冒頭で出逢う若い娼婦に打ち明ける、かつて友であった男の薄れゆく足跡をたどり、インド南部の長い旅を続けているのだと。だが、この人物はとうとう最後まで姿を現さない。確かに存在する、あるいは存在していたらしく、我々が主人公とともに訪れる場所に立ち寄ったらしいのだが、几帳面にも自分が存在した証拠、通過した足跡をことごとく消し去っている。まるで、この人物がジャン=ユーグ・アングラード自身の謎めいた目に見えない分身と化して、アングラード自身がこの、ありそうもない人探しの唯一の鍵であるかのようだ。なぜなら、この人物について調べ、彼がしるした道筋をたどり、彼がよく出入りしていたホテルに泊まるうちに、ジャン=ユーグ・アングラードはこの永遠の友なる人物の実在を次第に構築していくからだ。後にこの人物がナイチンゲールと呼ばれていたことが判明する。あたかも主人公は友の替え玉となるのに応じ、己の肉体ばかりか新たなアイデンティティーまで提供したかのようである。

オーソン・ウェルズの映画、『Mr. Arkadin』(日本劇場未公開、ビデオ版邦題「秘められた過去」)を思い起こさずにはいられないこの探求の旅と引き換えに、ジャン=ユーグ・アングラードはインドの光輝く風景のなかでひときわ異彩を放ちながら、自分が何者かを見出し、その人物になるであろう。そして自ら身を投じた心の探究から生まれたこの新しい人格に厚みと内実を加えていくであろう。

インドはこうした模倣行為におあつらえの国である。ここでは微笑んでいるうちに運命が好転するのだ。大いなる洗練と極限の荒々しさとを併せ持つこの国では、遠い過去とすぐ目の前の現在とがあっけらかんと共存している。ここでは死のしるしが突然、生のしるしに転ずることもあれば、その逆も起こり得る。また、ここではおびただしい数の人の群れが、まったく唖然とするような、途方もなく衝撃的な偶然の起る確立を増やしているように思われる。

ある時(それはこの映画の中で最も驚くべき瞬間のひとつである)、ジャン=ユーグ・アングラードはさびれた病院に立ち寄り、自分の尋ね人がそこに入院していた形跡を確かめようとする。だが、自分を取り巻く悲惨な光景に彼の心は次第に乱されていく。彼を病室から病室へと案内する医師はきっぱりと忠告する。友の捜索を諦めるように、そしてなによりも、西洋には西洋の道理があるようにインドにはインドの道理があり、この二つは根本的に違い、ときに相反するものだと心得よと。
映画の終局で逆転が起こったようだ。インドの輝きと苦悩がジャン=ユーグ・アングラード扮する人物がかぶっていた殻を少しずつ破り、おそらく彼を変えたのだろう。インドの光が体を貫き、生が心の奥底に通じる一本の道を切り開いたようである。おそらく彼は夜が明けたら、前の晩にゴアのホテルの美しいテラスで出逢った女性(クレマンティーヌ・セラリエ)にまた会うだろう。そして、いったん定まったかに見えた運命は再び向きを変えて歩み出し、二人のために道が開かれるだろう。
彼が経験する数々の出逢いのなかでも、列車の旅の道連れとの出逢いのシーンでシャミッソーとペソアが話題となるのは無論、偶然ではない。二人の作家は生きた世紀こそ違うが、いずれも「分身」を核心的なテーマとした。ペソアはこの問題をさらに掘り下げた。なぜなら自らいくつもの筆名を使い分けたから。実存とその分身との関係こそが、本作品を差配し、無くしたものを探す終わりのない旅へと仕向けているのは、言うまでもない。
ジャン=ユーグ・アングラードが己の欲望の対象に忍び足で近付いた、と思った途端に、それは無情にも逃げ去ってしまう。この何度も繰り返されるシーンに流れるシューベルトの五重奏曲が神々しいまでに美しいのは、その荘厳な和音のアクセントが、かなわぬことの悲しみを永遠に刻み付けているからだ。

パトリック・バンサール(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
12月4日(土)、12月5日(日)、12月11日(土)、12月12日(日)、12月18日(土)、12月19日(日)、12月23日(木・祝)、12月25日(土)、12月26日(日)

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。