『テオレマ』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『テオレマ』
TEOREMA

語りつがれる“ものがたり” Ⅳ
2010.9.4(土)~10.16(土)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。

 

『テオレマ』TEOREMA

1968年/イタリア/カラー(一部モノクロ)/94分/35mm/イタリア語​

原作・脚本・監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
撮影:ジュゼッペ・ルッツォリーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
編集:ニーノ・バラッリ
出演:テレンス・スタンプ、シルヴァーナ・マンガーノ、マッシモ・ジロッティ、アンヌ・ヴィアゼムスキー、アンドレス・ホセ・クルス・ソウブレッテ、ラウラ・ベッティ、ニネット・ダヴォリ
フォトクレジット:© FSF
北イタリアの工業都市、ミラノの郊外に住む裕福な家庭に、ある日突然、美青年が舞い降りてくる。父親は大勢の労働者を抱える大工場の持ち主。その夫に寄り添う美しい妻と、無邪気な息子と娘。女中がひとり。何の前触れもなく同居を始めた青年は、それぞれの家族と関係することで、穏やかな日々を徐々にかき乱していく。家族は青年の性的な魅力と、神聖な不可解さに魅了され、挑発され、やがて青年が去ると同時に崩壊の道をたどっていく。一方、農村に戻った女中は、まるで天からの啓示を受けたかのように超自然的な力を獲得し、次々と不思議な現象を引き起こして村人を圧倒させる。秩序を失った家族を背景に、父親は所有していた工場を労働者へ明け渡し、何一つ持たない状態で荒野をさまよい歩く。
 

作品について About Film

『テオレマ』を久々に見て、この作品が根本的に古びておらず、それどころか時代を超越し、まるで一種のノーマンズランド、甘美さと苦しみに満ちた長いささやきの中で展開しているような印象に瞠目し、身動きできなくなった。
グレーとベージュを基調とする出演者たちの衣装の素材そのものにセットの冬色がほのかに染み渡り、あたかも綿毛で覆われたような、この柔らかな外観が、情動にフィルターをかけ、漏れ出さぬよう抑制し、とりわけ沈静化する役割を果たしているかのようである。『テオレマ』は多くを語らない映画だ。台詞はないとは言えないまでも断片的だ。ある種の古代イタリア絵画を彷彿とさせる登場人物たちの顔の表情からは、生命感が希薄で、その存在は残酷なまでに無意味な一人の人間に身をゆだねた彼ら、彼女らの虚無感、激しい恐怖、神から見放された孤独が読み取れる。この存在することの難しさを、パゾリーニは固定したカメラによってじわじわと醸成し、われわれに突きつける。もっとも本作品が固定ショットを多用しているのは、資金を節約するためであるが。
そして言うまでもなく、『テオレマ』の大いなる神秘はテレンス・スタンプである。チュニカか経帷子(きょうかたびら)を思わせる白いプルオーバーを着て登場し、いくらもたたぬうちに、ほとんど動かぬまま、微妙かつ完全に内面的な磁力を発し始める。彼はある家族の寵児となり一家に波乱を巻き起こすわけだが、家族を魅了するために執り行う秘密の駆け引きの中で、彼のようにこの不思議さ、偽りの優しさ、過激さを表現できる男性俳優は滅多にいない。『テオレマ』は左翼的政治姿勢を強く表明すると同時にキリスト教を深く信仰した監督らしからぬ作品である。それは一人の男(一家の父)が福音書に見出せる行動原理に従い、自分の工場を従業員に与える政治的決断を下す物語である。ところが、この決断を下した理由がほとんど語られていないのだ。テレンス・スタンプ(悪魔、それとも天使?)の存在は、この決断の原因が超自然現象にあり、この寓話のなかでは福音の道がおそらくマルクス主義の道と重ね合わされていると推測させてくれる。しかし決断は下されない。つまり、どの登場人物もテレンス・スタンプとの出会いがもたらした人生の方向転換を引き受けられそうもない。
違反を犯した後、今まで通りの生活がまた始まり、失踪するアンヌ・ヴィアゼムスキーを除く一家の面々は、この新たな境遇を苦悩の極限まで耐えているように見える。この意味で、シルヴァーナ・マンガーノの出演シーンは希有な力強さを放っている。ほとんど何も起らないだけに、これらのシーンは強烈な官能で満ち満ちている。しかし彼女の美しい顔があまりに大きな苦悩を映し出すので、われわれはまったく為すすべなくたたずむしかない…。
作品の終盤で村の家々の上を空中浮遊するラウラ・ベッティのキャラクターも素晴らしい。
1968年に家族やブルジョワジーの価値観を揺るがすゲームを提起するのは珍しいことではなかった。この映画の美しさは、どの瞬間、どの映像、どのカメラの動きからも湧き出る詩情にある。これが人や物に染み込み、おのおのに固有の神秘を授けている。

パトリック・バンサール(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
9月4日(土)、9月11日(土)、9月18日(土)、9月25日(土)、10月2日(土)、10月9日(土)、10月16日(土)

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。