『マイヨ・ジョーヌへの挑戦』+美しき逃避行へのオマージュ| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『マイヨ・ジョーヌへの挑戦』+美しき逃避行へのオマージュ
HELL ON WHEELS / L’éloge de l’échappée belle

美しき逃避行 Ⅳ
2009.9.26(土)~12.26(土)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。

毎年7月、豊かなフランスの国土を背景に繰り広げられる過酷な自転車レース、ツール・ド・フランス。ゴールに向かってスパートをかける選手に沿道の観客はこう叫びます。「L’échappée belle!」

『L’échappée belle 美しき逃避行』をテーマにお届けした2009年のル・ステュディオ。最後を飾る本プログラムでは、肉体と精神の間の絶え間ない交感が、人々を美しき逃避の彼方に誘う瞬間をツール・ド・フランスを巡るドキュメンタリーのなかに見出します。

100年の歴史を持つツール・ド・フランスの表情を様々な角度から紐解くため、今回はプログラムを二部に分けています。短編のアンソロジーでは、三人のフランス人映画監督が、ツール・ド・フランスを独特のまなざしで切り取り、長編では勝負を超えてレースに取り組む選手の姿を2003年大会の内幕から粘り強く描いています。

肉体的な鍛錬のみならず、人間の頭脳と技術の粋が集結した世界一と呼ばれる自転車レースの多面的な表情を、美しき逃避行への賛辞に代えて、お送りします。

 

『マイヨ・ジョーヌへの挑戦 ツール・ド・フランス100周年記念大会』HELL ON WHEELS

2004年/ドイツ/カラー/123分/ビデオ/ドイツ語
脚本・監督:ペペ・ダンカート
出演:エリック・ツァベル、ロルフ・アルダーク、ヤン・ウルリッヒ、ランス・アームストロング、アンドレアス・クレーデン、アレクサンドル・ヴィノクロフ
フォトクレジット:Right © MC4 PATHÉ CANAL+ 1988
 

『ツール・ド・フランス、万歳!』Vive le tour !

1962年/フランス/カラー/18分/16ミリ/フランス語
監督:ルイ・マル
フォトクレジット:Right © MC4 PATHÉ CANAL+ 1988
 

『行け、ラペビー!』Vas-y Lapébie !

1988年/フランス/カラー/27分/16ミリ/フランス語
監督:ニコラ・フィリベール
撮影:オリヴィエ・ゲノー、フレデリック・ラブラス
フォトクレジット:Right © MC4 PATHÉ CANAL+ 1988
 

『マイヨ・ジョーヌのために』Pour un Maillot Jaune

1965年/フランス/モノクロ/20分/35ミリ/フランス語
監督:クロード・ルルーシュ
フォトクレジット:Right © MC4 PATHÉ CANAL+ 1988
 

作品について About Film

世界初の自転車レースは19世紀半ば、フランスのサンクルーで開催されたのに対し、ツール・ド・フランスは1903年、スポーツ誌「ロト(L’Auto)」の記者、ジェオ・ルフェーヴルの発案により創始された。第一回「ツール」は1903年7月1日、60人の豪胆なパイオニアたちを集め、スタートした。優勝したのはモーリス・ガラン。総走行距離は約2500kmだった。

ツール・ド・フランスは第一回から報道関係者の格好の活躍の場となり、そのあまりの加熱ぶりに、彼らを喜ばせるために創られたのではないかとの疑念が生じる。これこそツールが現代の最も象徴的で根強い神話のひとつであることの端的な証拠だ。カメラマンたちもいち早くコース上に現れた。そして100年以上たった今でも、彼らはツールとともに移動するキャラバン隊の大勢を占めている。選手とレポーターは、あたかもこの波乱万丈の冒険旅行と、これに喝采を送りにやってきたサポーターたちのイメージを飽くことなく投影し合うことにより、大衆のためのミサと化したスポーツ界の偉業の絵図を描き出しているかのようである。いったい、ツールの何が人々をかくも魅了するのだろうか?憧れのヒーローがハンドルにしがみつき、最後まで走り抜こうと超人的奮闘を繰り広げる姿に、ファンはやんやの喝采を送るわけだが、それ以外に、おそらく、選手がフランス全土を駆け巡りながら、我らの美しい国の住民たちのあいだに民主主義的な共謀、あるいは共和主義的な同胞愛の連鎖を象徴的かつ実際に巻き起こしているのではなかろうか。もっとも、悪いムードの連鎖が起きることもしばしばあるが!けっきょく、サポーターたちは互いを知らないからこそ、ツールの輪が彼らのあいだに見えざる、かつ、誰彼の区別なしのきずなを作り上げるのだ。ふざけ合い、笑い、選手を応援し、また、お気に入りの選手がステージを制さなければブーイングする…。肝心なのは努力する能力(根性)、ただしそれがサポーターの望む方向に向かわなければいけない。なぜなら、月並みではあるが、とどのつまり、ツールの真のチャンピオンは、コース沿いに並び、選手が来るのを待ちかまえ、彼らの頑張りに声援を送るフランス各地の無名の観衆だから。

このイベントはすでに言ったとおり、ほかとは違う特別な社会的きずなを結び、仲間意識と各ステージの賑々しい雰囲気とともに、家族で夏の始まりを祝い、楽しむための機会なのである。
だから人民戦線の時代やナチス占領からの解放直後、すなわちフランス史の大きな節目に、ツールが成功をおさめてきたことは理解できる。このような時には、全ての国民がカメラのレンズの前でその存在を主張し、一体感を味わうものである。そして、これらのサポーターと観衆は、ちょっと茶化した言い方をすれば、人民より選ばれし者、すなわちフランス庶民、勤労者の代表として、コース沿いに並ぶのである。
全国民の命運が定まる節目と重なる瞬間、庶民の素朴な歓喜は突如として、幾重もの意味を帯びた、電撃的な歓喜となる…。
前置きが長くなりすぎた(!)

さあ、本題に入ろう。これから四本の映画を紹介する。

ルイ・マルの作品は、ツールを取り巻く空気の一種独特で大衆的な側面をより深く掘り下げている。サポーターでにぎわう沿道、愉快な、あるいは意外なディテール、「大衆のお祭り」的な光景がアコーディオンの伝統曲に乗せて展開する。ルイ・マルはフィクション映画のほうが肩の力が抜けており、自分の趣旨にかなう被写体をやや引いた目線で捕らえている。こうすることで、無名の観衆を選手らに匹敵するほどの役者にしてしまう、あの独特の雰囲気を再現してみせること以外にはさほどこだわらずとも、ツールのさまざまな表情を盗み撮りすることに成功している。偉大な映画監督であり、大の映画ファンでもあるルイ・マルにとって、それはジャック・タティのフランスとジャン・ルノワールのフランスの両方にウィンクするための、自分なりの流儀なのだ。おそらくそれが、なによりも先に、ましてやツールそのものよりも先に、彼がやりたかったことではないだろうか…。

ニコラ・フィリベールの作品は1988年に製作された。
この作品がツールを扱った他の映画と一線を画する点、それは1937年、驚異的ラストスパートの後で、観衆の声援と怒号が届かないところで、言わば秘密裏にツール・ド・フランスの勝者となった一人のフランス人レーサーの冒険を物語っているところにある。この若いレーサーが優勝する運命にあると予感させるものはなにもなかった。どこか内気で、肉体面でもどちらかと言えば目立たない存在…それが現在のラペビーだ。驚くほど感じのいい、彼に賛辞を送る役目を負った某演説者の言葉を借りれば、ルイ・ボベ風「ジェントルマン」…。控えめな男、ラペビーが実際にレースに出場したのは数年間に過ぎなかった。不幸な転倒事故により、大戦の直前にキャリアを終えたから。だが、彼の競技人生は終わったとしても、自転車への愛と銀輪を駆っての遠出は決して終わることはなかった。この映画の気の利いた点は、戦前のレース、特に栄光の1937年ツール・ド・フランスに出走するラペビーのニュース映像と、現在のラペビーを追ったシークエンスを誇張なしに並行して見せているところにある。現在の彼は細身で、上品で、ほどほどに庶民的で、その秘めた情熱と、他のレーサーや無名の観衆、旧友らに及ぼす控えめな威厳によって、独特の雰囲気を漂わせている。まるで戦前の彼と80年代の彼は別人物であるかのように、また、近年の一人で走る彼は、時の流れや人生の試練によって磨かれ、己れの考えるサイクリングの技と真理の一番大切なもの、すなわち「自転車道」の奥義を会得したかのようである。
多かれ少なかれ、ラペビーは日々サイクリングを実践し、内省することにより、禅の高僧の哲学的悟りと他者を思いやり、意図しているのとは逆のことを言うアイロニーの境地に達した。

クロード・ルルーシュの作品は、知的、有能、寛大…といった監督自身のイメージを反映している。「愛と哀しみのボレロ」、「男と女」の監督がツールの何に興味を抱き、これを映画化するに至ったかが理解できる。それは選手たちの孤独な努力を続ける能力のみならず、同じ肉体的試練、同じ疲労と戦い、同じ山岳ステージで暑さから凍える寒さまでを共に味わう選手たちのあいだに生まれる兄弟愛、そして最後に、勝敗にはほとんどこだわらない選手たちの姿…なぜなら努力と連帯感が彼らに大いなる士気と情熱を与え、陶酔させているように思われるから。
カメラの砲列の前を次々と全速力で駆け抜けていく選手たちには、ほとんど人間離れした面持ちがある。あたかも彼らのマシンの未来的な仕組みやデザインが彼らの思考に取って代わってしまったかのように…ところが幸いにも、銀輪が念仏のようにブンブン唸るツールの儀式の最中に、往々にして何かがぷつんと切れることがある。それは、ほとんど機械と化して走っていた選手の一人が突然、ほとんど動物的な直感で、今スパートをかければ逃げ勝てるかもしれないと悟る瞬間である。すると彼はやおら立ち漕ぎになって、猛然と筋肉を働かせ、誰にも追いつけそうもない逃げ足で、狂ったように我を忘れ、ゴールラインに向かって突進する。まだ勝利が決まったわけではないのに…。でも僕らには分かっている。なにものも彼を止められないと。
彼は「L’échappée belle レシャペ・ベル」と呼ばれるラストスパートの深淵に身を投じた。その謎めいた渓谷に落ちると、人間の肉体と精神は偶然、無重力空間に放り出されたかのようになり、豊穣な錬金術により、想像もつかないほど超人的で、ほとんど神秘的な潜在能力を発揮し、勝利を手にするのだ…。

『マイヨ・ジョーヌへの挑戦』は、今やテレビルポルタージュの定石となった伝統的手法を踏襲している。これはツールの規則、決まりごとを歴史的、批判的、客観的に説明するのにふさわしい。この、客観的で、ほとんど中立的な立場を貫こうという意志のはたらきにより、作品中のツールの映像が、しばしば同じことの繰り返しのように見えてくる。フランス各地の平地から山岳へと進み、さらに選手にとってはとりわけ過酷な峠越えに入っても、変わるのは風景のみ。変わらないのは各ステージでのお定まりの儀式、選手たちの日々の奮闘ぶり、そして勝利と敗北…これらすべてがよく映像に収められている。なぜなら監督の趣旨は、このスポーツに対して一種の「診断」を下そうとするものだから。事実、このスポーツは粘り強さとスピードだけでは説明しきれない、謎めいた法則に支配されているように見えるだけに、どこか賭博に通じるものがある。

パトリック・バンサール(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
『マイヨ・ジョーヌへの挑戦 ツール・ド・フランス100周年記念大会』
上映日:9月26日(土)、10月3日(土)、10月10日(土)、10月17日(土)、10月24日(土)、10月31日(土)、11月7日(土)
※本上映会はDVD上映となります。

美しき逃避行へのオマージュ
上映日:11月14日(土)、11月21日(土)、11月28日(土)、12月5日(土)、12月12日(土)、12月19日(土)、12月26日(土)
※本上映会はデジタルベータカムによるビデオ上映となります。

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。