『シャーマン』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『シャーマン』
Chamane

特別プログラム
2009.1.24(土)~2.22(土)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。

天才バルタバス率いる奇跡の騎馬スペクタクル「ジンガロ」。
日本中を大きな感動と熱狂で沸かせた2005年の初来日公演を経て、最新作「バトゥータ」とともに待望の再来日を果たしました。
エルメスは初来日公演に引きつづき、今回も特別協賛として参加し、フランスが誇る、馬と人が奏でる総合芸術「ジンガロ」をサポートいたします。

本プログラムは、自由や旅を原点とするジンガロの哲学、バルタバスの世界観を映画という別の切り口から紹介するものです。1996年に発表されたバルタバス監督作品「シャーマン」、この作品の辿るシベリアの道筋は、危険と隣り合わせでもある自由とその冒険の力強さを我々に示しながら、本能の恍惚へと導くかのようです。バルタバスにとっても大冒険であったというこの壮大なる抒情詩をお楽しみください。

 

『シャーマン』Chamane

1996年/フランス/カラー/95分/35mm/ロシア語​

監督:バルタバス
脚本:ジャン=ルイ・グーロウ、バルタバス
撮影:マリーヤ・ソロヴィヨーヴァ、ミハイル・アグラノーヴィッチ
音楽:ジャン=ピエール・ドゥルエ
編集:ジョセフ・ルシード、スヴェトラーナ・イヴァノーヴァ
出演:イーゴリ・ゴツマン、スパルターク・フェドートフ、ウラジーミル・ヤーコレフ
フォトクレジット:© Igor Gostman / MK2
積もる雪が灰色の空をも覆うほどの、雪深いシベリアの奥地にある収容所。そこでは男たちが労働の合間にひたすら眠り、煙草を燻らせ、賭け事に興じることで、毎日を凌いでいる。音楽家のドミートリーがときおり奏でるバイオリンの音色も男たちには騒音でしかない。絶望した彼はバイオリンを背負い、シャーマンと名乗る同胞の力を借り、雪山に群れで移動する野生の馬の一頭を友として、収容所から脱出する。向かった先は故郷のモスクワ。一人の人間の力が及ぶはずもない荘厳な自然を相手に、食べ物に飢え、方角を失い、力尽きる度に現れる精霊の存在。いつしか人間、動物、自然の間にはばかる境界は消滅していく。馬を旅の資金とし、ようやくたどり着いた都市でドミートリーは人ごみのなかに入っていく。
 

作品について About Film

『馬と精霊』
四方田犬彦 (明治学院大学教授、比較文化研究家)

はじめて馬に接したときの不安と期待。バルタバスの『シャーマン』はそこから始まる。
噛み付かれるのではないか。蹴飛ばされるのではないか。だが躊躇っている時間はない。すぐそこまで追手は来ているのだから、ただちにこの馬に乗ってこの凍てついた雪原から脱出しなければならないのだ。
先生が馬の鬣(たてがみ)に手を差し入れていう。ほら、温かいだろう。大丈夫だよ。彼はギンバルトというマウスハープを奏でて馬を安心させ、荒縄で手綱をつけると弟子を馬に乗せる。先生は追手の凶弾に倒れ、植物の精霊に見守られて死ぬ。だが何としたことか、村の鍛冶屋に姿を変えて甦り、馬の蹄鉄をつけてくれたりして、弟子の行く末を見守る。最初はおっかな怖驚(びっくり)に手綱を握っていた弟子も、やがて馬を信頼し、また馬に信頼されるようになる。人家のある集落まで逃げきったとき、彼は馬を現地の商人に叩き売り、その金で都会に出る。女の子と知り合い、彼女とベッドをともにする。だが馬を捨てたことの虚脱感から深夜に部屋の窓を開け放ち、そこで神秘的な直感を受ける。その後は現実なのか、空想なのかはわからない。彼は精霊の声に導かれるままに、ふたたび雪原で馬に乗っている。

『シャーマン』を観て最初に想ったのは、牧牛図という一続きの水墨画である。そこでは一人の牧童が野牛を前に、なんとかそれを手懐けようと試みる。さまざまな試行錯誤の後、牧童はそれに成功し、野牛と渾然一体の存在となる。最後に巨大な円相が現われる。野牛とは実は牧童の混濁した心を示すものであった。知恵がその心を律し、互いに許しあったとき、統合の徴として円が出現する。牧牛図は人間が悟りに達するまでの過程をやさしく絵解きしたものとして、禅宗でしばしば描かれてきた。
バルタバスの手になるこの雪原のオデュッセウスの放浪物語に描かれているのも、同じ過程である。それはソ連の収容所からの脱獄物語であると同時に、ひとりの青年が馬を媒介として精霊の世界に目覚め、その声を聞くことを学ぶという通過儀礼の物語でもあるのだ。凍てついたバイカル湖で彼が全裸となり、馬の胸元にナイフを当て、迸る温かい生血に口を潤すという場面を思い出してみよう。極限に達した生だけが見せる壮絶な美しさが、そこにはある。
黒澤明は生涯にわたって馬を愛し、ある意味で馬を描くことを映画作りの中心においていた監督であった。彼がもし『シャーマン』を観たとすれば、大いに悦んだことはずである。というのもそこで舞台として選ばれているのが、彼が1970年代に『デルス・ウザーラ』で描いたシベリアの森であるためだ。ウラル・アルタイ文化圏の南端にあって、イタコやノロといったシャーマンの伝統を有する日本人は、この北方のフィルムをどのように受けとめるだろうか。
 

上映スケジュール Schedule

上映日
1月24日(土)、2月7日(土)、2月14日(土)、2月21日(土)、2月28日(土)

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス  ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。