『パーキーザ―心美しきひと』| エルメス - Hermes

GINZA MAISON HERMÈS

Le Studio

『パーキーザ―心美しきひと』
PAKEEZAH

インド I
2008.1.26(土)~4.12(土)

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。

 

『パーキーザ―心美しきひと』PAKEEZAH

1971年/インド/147分/カラー/35mm/ウルドゥ語​

監督・脚本:カマール・アムローヒー
撮影:ヨゼフ・ヴィルシンク
音楽:グラーム・モハンマド、ノゥシャード
出演:アショーク・クマール、ミーナー・クマーリー、ラージ・クマール、ヴィーナー
フォトクレジット:© Films Sans Frontières
踊り子のナルギスはシャハーブッディーンとの身分違いの恋仲を引き裂かれ、失意のなかで娘、サーヒブジャーンを産む。17年後、母と同じ美しい踊り子となったサーヒブジャーンがいた。ある日、汽車のコンパートメントで眠るサーヒブジャーンの美しい足に手紙が残される。

「…あなたの足はなんと美しいことか。この足はどうぞ地面におろさないでください。汚れてしまうでしょうから。―乗り合わせた者より」

サーヒブジャーンは汽車の汽笛の音を聞くたびに、まだ見ぬこの手紙の主のことを想うようになった。
運命の再会―手紙の主は森林監察官をしているサリームという青年だった。しかし、サーヒブジャーンはサリームに自分の踊り子の名前を告げることができず、記憶喪失を装ってしまう。

実家にサーヒブジャーンを連れ帰ったサリームだったが、祖父に素性の知れぬ娘との結婚を許されず、サーヒブジャーンを連れて家を飛び出す。サーヒブジャーンは自分が重荷となっていることを感じるのだった。駆け落ち先でサーヒブジャーンはついに告白する。自分は身分の卑しい踊り子、サーヒブジャーンという名であることを。

その事実を聞き、サリームは彼女を正式な妻にすることを決心する。イスラム僧たちが結婚の儀を行う最中、名を尋ねられ答えるのを躊躇しているサーヒブジャーンに代わって答えたのは、サリームだった。
「この人の名はパーキーザです……」
 

*サーヒブジャーンの“ジャーン”は踊り子を意味するため、名前から身分がわかる

 
『パーキーザ』 雅(みやび)なるインド映画の世界
松岡 環

1912年から製作が始まったインド映画界では、これまでに多くの伝説的作品が誕生した。『パーキーザ』はその代表格である。
インド映画の永遠のテーマは、「至高の愛」と「家族の絆」。『パーキーザ』では、日本の芸妓にあたる踊り子と、名家の息子の恋が二世代にわたって描かれる。娼婦でもある踊り子を、「パーキーザ(清らかなるもの)」に昇華させてしまう恋の魔法が描かれ、身分を越えた恋は、最後に家族の犠牲によって成就する。
インド人ならこの恋物語に、カマール・アムローヒー監督と女優ミーナー・クマーリーの物語を重ね合わせるはずだ。2人の結婚後撮影に入った『パーキーザ』は、彼らの離婚で宙に浮き、数年後に撮影が再開されてようやく完成した。着手から16年後だったという。
そしてまた、ヒロインの数奇な運命は、ミーナー・クマーリーの生涯とも重ね合わされる。子役から娘役に転じて輝くその姿を銀幕に焼き付け、詩集を出す才もあるのに、最後はアルコールに溺れた佳人。彼女は『パーキーザ』公開直後に亡くなり、こうしてこの映画にはさらなる伝説が加えられたのだった。
詩的なウルドゥ語に加え、北インドのヒンドゥスターニー音楽や古典舞踊カタックなど、全編にイスラム文化の馥郁たる香りが漂う。見る人を雅な映画世界に誘う名作である。
 

作品について About Film

底なしに複雑で、予測不可能に二転三転するシナリオをもとに、カマール・アムローヒーはインド映画史上、いや世界映画史上最も美しく、最もはらはらさせる映画のひとつを作り上げた。ボードレールの宇宙といくつかのピエール・ロティが描いた破滅と死へと至る恋物語とを交互に思い起こさせるこの作品は、阿片の幻覚さながらの雰囲気にとっぷりと浸っている。作品は精巧なペルシャ細密画のみならず、ヴァランティーヌ・ユゴーやサルバドール・ダリといったシュールレアリストの絵画をも彷彿とさせる。

この強烈で荘厳な色彩の燃え上がるメロドラマのなかで、男と女は愛によって決定的に引き裂かれる。この天使の顔をした、呪われた芸妓の物語は、時としてサタジット・レイの『音楽ホール(The Music Room)』を思わせるが、『パーキーザ-心美しきひと』はよりシンプルかつバロック調の世界で、わたしたちを魅了してやまない……。
彼女は監督の妻であり、母語ウルドゥで優れた詩も書いた。彼女の美しい顔立ち、誇り高く頭を上げた姿勢、洗練された装身具、あたかも破滅をまっすぐ見据えているかのような眼差しの名状しがたい魅力。それらは映画の新たな光景としてわたしたちを震駭させ、目を離すことができない。

舞いの場面で彼女が旋回を始めた瞬間に、わたしたちは彼女が死ぬ運命にあることを漠然と悟る。これは文字通り、そして比喩的にも実現してしまう。なぜなら彼女は撮影が終わった数週間後に他界してしまったから。ダンスの場面を撮影したのは腕利きのチーフオペレーターで、一瞬一瞬に死神が垣間見えるような印象を与えている。夜、星空のもと、忘れがたい「チャルテー・チャルテー」のリズムに合わせてダンスがひとつひとつ披露される。『チャルテー・チャルテー』はインドで今日もなお愛されている曲であり、ここではラター・マンゲーシュカルがナイチンゲールのさえずりにもたとえられたその美声で歌い上げている。

作家でもあるカマール・アムローヒー監督は4本のボリウッド・ミュージカル・コメディーを撮った。そのアイディアの源泉はむろん、豪華絢爛なハリウッド・ミュージカルである。
この千夜一夜物語の世界の魅惑的で甘い優しさは、皮を剥ぐように、あるいは刺すように鋭い痛みと表裏一体をなしている。カメラの回転や俯瞰のショットはこのドラマを神話の品格をそなえた寓話に変え、これらを強調すべく血と去勢のテーマが透かし模様のように刻み込まれる。黄昏、船の渡し、荒々しい象の突進、夜汽車のなかの偶然で官能的な出逢い、早朝の湖面を飛び立つ何千という鳥の群れ……。インドの広大な風景のなかで撮影されたシーンには比類なき詩情が取り入れられている。それらはインドの舞と謡のくらくらするようで、かつ精緻な魅力とぴったり呼応している。
『パーキーザ-心美しきひと』は60年代ボリウッド映画の最後の華であった。

パトリック・バンサール(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)
 

上映スケジュール Schedule

上映日
1月26日(土)、2月2日(土)、2月9日(土)、2月16日(土)、2月23日(土)、3月1日(土)、3月8日(土)、3月15日(土)、3月22日(土)、3月29日(土)、4月5日(土)、4月12日(土)

上映時間
11:00/14:00/17:00
 

会場 Access

銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)
 

予約 Reservation

※このプログラムの上映は既に終了いたしております。